ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』の最初の三部作で独自の世界を構築することによって、当時、確実に失われつつあったアメリカ的な価値観を甦らせた。
ヨーロッパから新世界アメリカに渡った移民たちは、西へ西へと進みながら新しい国を築きあげる過程で、ヨーロッパ人とは異なるアイデンティティを培っていった。長い歴史を背負うヨーロッパでは、何らかのかたちで伝統を継承するところからアイデンティティが切り開かれる。これに対して歴史のないアメリカでは、ヨーロッパ的な伝統から遠ざかり、新しい自分を発見していくことで未来に向かってアイデンティティがより明確になっていくと考えられた。この新しい価値観は、父と子の関係に反映されている。息子は父親を乗り越え、先に進むことによって、アメリカ人としての自分がより明確なものになっていくということだ。
『スター・ウォーズ』三部作には、ルーク・スカイウォーカーという息子が、ダース・ベイダーというかつての父親を乗り越え、先に進もうとする図式がある。この図式を説得力あるものにするためには、その背景としてのフロンティアを構築する必要があった。しかし当時は、ヴェトナム戦争の敗北が決定的となり、西部劇が消失し、未来に明るい希望を見出せない閉塞的な時代だった。そこでルーカスは、SFコミック、神話、西部劇、黒澤の時代劇などを混ぜ合わせ、特撮技術を駆使したもうひとつのフロンティアを作り上げた。
このフロンティアがただの寄せ集めにならなかったのは、断片をひとつにまとめる物語の力によるところが大きい。デール・ポロックのルーカス伝「スカイウォーキング」によれば、ルーカスは『スター・ウォーズ』の構想を練っているときに、「わたしはおとぎ話や神話、宗教の本質をつかもうとした。それがどうやって成り立っているかを知るために、核となる部分を研究していたんだ」、あるいは「おとぎ話を知らずに育った世代がいる」というように語っていたという。
『スター・ウォーズ』は、「遠い昔、遥か彼方の銀河系で…」というイントロから始まる。この映画のストーリーは、未来を舞台にしたファンタジーというよりは、語り継がれる神話的な物語として描かれる。そこには、アーサー王伝説が大きな影響を及ぼしているように思える。己の出自を知らずに成長し、オビ・ワンから父親のライト・セーバー=剣を授かるルークは若き日のアーサーを、ルークをジェダイ=騎士の世界に導くヨーダは魔術師マーリンを連想させる。
また、少々ネガティブな意味でアーサー王伝説の影響を感じさせる部分もある。それは三部作における女の立場だ。主要な登場人物のなかで、女はレイア姫しかいない。彼女は気が強く、時に大胆な行動に出て窮地を脱することもあるにはある。しかし、彼女を取り巻く男のキャラクターと比較すると、やはり深みに欠け、飾りという印象は拭えない。第三部の『ジェダイの復讐』では、彼女がルークの妹であることが明らかになるが、フォースの強い家系の一員であるはずの彼女が、そのフォースの力を示すことはない。アーサー王の物語では、最初は騎士たちのなかに女も含まれていたが、キリスト教の修道士たちによって伝えられていく過程で、そんな女たちが削除されていったという歴史がある。『スター・ウォーズ』はそんな部分も引き継いでいるのだ。
このように神話的な物語を参照することで、魅力的なもうひとつのフロンティアを作り上げたルーカスは、そこで繰り広げられるドラマに様々な形でアメリカやアメリカに対する彼の考え方を反映させている。
たとえば、ハン・ソロのキャラクターだ。彼は高速艇を自在に操り、金でしか動かない人物として登場する。最初は、ルークがオビ・ワンの指導を受ける姿を見ながら、フォースやライト・セーバーのことを「カビのはえた宗教や武器」と言ってはばからない。一匹狼的な魅力を漂わせてはいるが、同時に50年代以降のテクノロジーや物質主義に対する盲信というアメリカの一面を象徴している。そんな彼はこのドラマのなかで改宗し、ルークとともに騎士道精神を発揮することになる。
しかし、やはり最も印象的なのは、父と子の物語である。この三部作は、単純に息子が父親を乗り越える物語ではない。ルークの父親アナキンはジェダイの騎士だったが、暗黒面に引き込まれ、ダース・ベイダーとなった。この父親の運命には、ヴェトナム戦争が象徴されていると見ることができる。 |