スプーク・カントリー / ウィリアム・ギブスン Spook Country / William Gibson (2007)
2008年/浅倉久志訳/早川書房
(初出:「STUDIO VOICE」 2009年3月号)
チャンネルを横断し、個人と世界の関係を見直す
ウィリアム・ギブスンは、80年代と90年代の三部作に続く第七長編『パターン・レコグニション』で転換を図り、近未来ではなく9・11以後の現在を背景とするようになった。その結果として先端テクノロジーやガジェットが生み出すSF色は希薄になったが、ハードボイルド的なseek and find≠フ構造から新たな可能性が切り開かれつつある。21世紀のギブスン作品では、主人公たちが最終的に到達する場所や明らかにする真相よりも、そこに至る過程が大きな意味を持つ。