スター・ウォーズ

1999年/アメリカ/カラー/133分/ドルビーSR,SRD,EX/DTS/SDDS
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(初出:「STUDIO VOICE」1999年8月号、若干の加筆)
裏切りの神話を描く鍵は女たちの存在にある

 「スター・ウォーズ / エピソード1」は、最初の三部作によってその後の物語がわかっているだけに、まったく未知の世界が見えてくるわけではなく、何を期待するかでその評価が大きく分かれるに違いない。確かに新作では、最新のデジタル技術を駆使した映像、宇宙船や都市、クリーチャー、衣装などのデザイン、アクションなど、それぞれのスタッフが以前とは違うものを作ろうと知恵を絞り、 凝ったディテールはそれなりに見応えがある。しかし、映画をディテールの単なる寄せ集めにするか、もうひとつの世界にまとめあげるかの鍵を握るのは、結局のところルーカス自身が紡ぎだす物語ということになるだろう。

 ルーカスは、最初の三部作を通して、アメリカの伝統的な価値観を呼び覚まそうとしてきた。それは簡単にいえば、息子が父親を乗り越えて先に進むことによって、自分を発見していくということだ。しかしフロンティアがなければこの伝統は成立しない。そこで彼は、西部劇が消失し、現代と直接的に繋がる未来に明るい希望を見出せなくなった閉塞的な時代に、 SFコミック、神話、西部劇、黒澤の時代劇、そしてSFXを混ぜ合わせたもうひとつのフロンティアを作りあげた。このフロンティアがただの寄せ集めにならなかったのは、物語の力があったからだ。この物語は、どう見てもアーサー王伝説に見える。自分の素性を知らずに育つルークは若き日のアーサーであり、彼をジェダイの世界に導くヨーダは魔術師マーリンであり、 西部劇風のキャラクターであるハン・ソロですらランスロット的な色気が漂っている。

 ルーカスは、アーサー王伝説を巧みに参照しながら、物語をアメリカの伝統的な価値観に結びつけていく。物語の始まりにおいて主人公の父親は不在だが、彼がジェダイの世界に踏みだすことによって、父親と同じ土俵に立ち、最終的にはその父親を乗り越えることによって自分を発見していくのだ。この図式は、ルーカスが物語を書いた「インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦」でも反復されている。 この作品で、インディはアーサー王伝説に描かれる聖杯を探すことになるが、聖杯は彼の父親と結びついている。自分の研究に没頭していた父親は、息子にとって不在に近い立場にあり、しかもその父親の専門領域が聖杯なのだ。そこでインディは、聖杯探しに乗りだすことによって父親と同じ土俵に立ち、試練を乗り越えて、聖杯に至ることによって父親を乗り越える。


◆スタッフ◆

監督/脚本/製作総指揮
ジョージ・ルーカス
George Lucas
製作 リック・マッカラム
Rick McCallum
撮影監督 デイヴィッド・タッターソル、B.S.C.
David Tattersall,B.S.C.
編集 ポール・マーティン・スミス、G.B.F.E./ベン・バート
Paul Martin Smith,G.B.F.E./Ben Burtt
音楽 ジョン・ウィリアムズ
John Williams

◆キャスト◆

クワイ=ガン・ジン
リーアム・ニーソン
Liam Neeson
オビ=ワン・ケノービ ユアン・マクレガー
Ewan McGregor
クイーン・アミダラ ナタリー・ポートマン
Natalie Portman
アナキン・スカイウォーカー ジェイク・ロイド
Jake Lloyd
メイス・ウインドゥ サミュエル・L・ジャクソン
Samuel L. Jackson
(配給:20世紀フォックス)


 ルーカスがこのように、映画のなかに神話的な世界を作り、その世界を通して父子の伝統的な関係を呼び覚まそうとするからには、彼のなかには、乗り越えるべき父親が不在の現代に対する屈折感があるはずだろう。そんなことを考えると、彼がスター・ウォーズの新たな三部作でどんな物語を紡ぎだすのか期待が膨らみもする。 ダース・ベーダーとなったルークの父親アナキンの物語を綴るということは、伝統的な価値観がいかにして裏切られるのかが見えてくることになるからだ。

 というよりも、筆者が興味をそそられるのは、この裏切りを神話としてどう描くのかということだ。ルーカスはデジタル技術の驚異的な進歩によって、新しい三部作を描くことが可能になったというが、その言葉が、神話の闇を描けるときがきたことを意味していなければ、映画は退屈なものになってしまうだろう。

 「エピソード1」は、そんな期待を持ってみると、これから大きくうねりだす物語の予告編に近い。見所となるのは、官僚主導の政治体制によって指導力が低下した共和国のなかで、経済摩擦をめぐって武力行使に出る巨大な通商連合とその脅威にさらされる惑星ナブーのあいだの戦いであり、通商連合を影であやつる闇の騎士シスとジェダイの戦いだ。 父親を知らない9歳の少年アナキンは、奴隷の身分で惑星タトゥイーンに暮らし、ジェダイの騎士との運命的な出会いを経て、通商連合との戦いで驚異的な力を発揮し、ジェダイになるための訓練を受けることを認められる。ここまでの少年の物語は、ルークの軌跡とパラレルな関係にあり、共通する資質を備えた人物がたどる対照的な運命については、次回作を待たなければならない。

 しかしこの映画は、次回作に期待してよいのか不安の残る予告編である。たとえば、アナキン少年をジェダイの世界に受け入れるかどうかを決定するのは、選ばれた12人のジェダイから成る評議会で、それはアーサー王の円卓の騎士そのものなのだが、戦闘シーンやアクションに押されて、ひどく存在感が薄い。ささやかな期待を感じさせるのは、 アナキンをジェダイに委ねる母親シミとアナキンの孤独を癒そうとする惑星ナブーの王女アミダラの存在だ。

 アーサー王伝説には、キリスト教化の過程で物語から女の存在が排除されてきた歴史がある。これまでのルーカスの世界でも、レイア姫を筆頭に女のキャラクターは常にお飾りとなってきた。そこでもし次回作で、彼女たちの存在が、円卓の騎士の結束を揺さぶることにでもなれば、神話の闇が開けてくるように思えるからだ。


(upload:2001/04/30)

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