私はヴァレンティナ
Valentina


2020年/ブラジル/ポルトガル語/カラー/95分/スコープサイズ
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(初出:)

 

 

17歳のトランスジェンダー、ヴァレンティナの痛みと目覚め
新鋭ペレイラ・ドス・サントスが炙り出すマチスモ(男性優位主義)

 

[Introduction] LGBTQの権利保障に前向きに動き、同性婚も認められているブラジル。その一方、トランスジェンダーの中途退学率は82%、そして平均寿命は35歳と言われている。いまだ根強く残る差別による事件の数々。トランスジェンダーの少女が、ただ自分自身として学校生活を送りたいというごくシンプルな望みすら実現することの難しさをリアルに描き、自分の居場所を探し、あるがままでいることの力強さを描いた本作。

 ヴァレンティナ役は自身もトランスジェンダーであり、著名なYouTuberでインスタグラマーとしても活躍中のティエッサ・ウィンバックが演じる。監督はショートショートフィルムフェスティバル&アジア2009でオーディエンス・アワードを受賞した『秘密の学校』(08)のカッシオ・ペレイラ・ドス・サントス。苦しい状況の中でも若いトランスジェンダーたちにとって希望のある物語を贈りたいという監督の想いから生まれた、未来に捧げる一作。(プレスより)

[Story] ブラジルの小さな街に引っ越してきた17歳のヴァレンティナ。彼女は出生届の名であるラウルではなく、通称名で学校に通う手続きのため蒸発した父を探している。未だ恋を知らないゲイのジュリオ、未婚の母のアマンダなど新しい友人や新生活にも慣れてきたが、自身がトランスジェンダーであることを伏せて暮らしていた。そんな中、参加した年越しパーティーで見知らぬ男性に襲われる事件が起きる。それをきっかけにSNSでのネットいじめや、匿名の脅迫、暴力沙汰など様々な危険が襲い掛かるのだった…。

[以下、本作の短い感想です]

 17歳のトランスジェンダー、ヴァレンティナを取り巻く状況、彼女の痛みや変化が描かれるだけではない。キーワードになるのは、マチスモ(男性優位主義)だといってもいいだろう。

 母親と田舎町に引っ越してきたヴァレンティナが出会う人物や彼女に起こることはいずれもマチスモと深く関わっている。

 高校に通い出したヴァレンティナは、ゲイのジュリオや妊娠しているアマンダと親しくなる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス
Cassio Pereira dos Santos
プロデューサー エリカ・ペレイラ・ドス・サントス
Erika Pereira dos Santos
撮影 レオナルド・フェリシアーノ
Leonardo Feliciano
編集 アレシャンドリ・タイラ
Alexandre Taira
音楽 トゥーヨ&シャン
Tuyo & Xan
 
◆キャスト◆
 
ヴァレンティナ   ティエッサ・ウィンバック
Thiessa Woinbackk
マルシア グタ・ストレッサー
Guta Stresser
ジュリオ ロナルド・バナフロ
Ronaldo Bonafro
アマンダ レティシア・フランコ
Leticia Franco
レナト ロムロ・ブラガ
Romulo Braga
マルコン ペドロ・ディニス
Pedro Diniz
-
(配給:ハーク)
 

 ジュリオは学校の男子と関係を持っているが、満たされているわけではない。彼らは関係を持ってもキスすることは許さない。ジュリオは、「キスしなければ男のプライドが保てるから」と説明する。要するに彼のことを欲望のはけ口にして、見下している。

 アマンダを妊娠させた相手は、彼女がトイレのなかで、電話で責めている人物だとすると、無責任な男なのだろう。だとすればいずれ未婚の母になるしかない。

 ヴァレンティナはジュリオと行った年越しパーティーで、ジュリオとはぐれ、ひとりで居眠りしてしまう。それを見たある男子生徒が彼女に近づき、下着のなかに手を入れようとして、彼女がトランスジェンダーであることを知る。彼がそのことをSNSで拡散するのは、”男のプライド”が傷ついた腹いせだろう。

 本作では、そうしたマチスモに対するペレイラ・ドス・サントス監督の視点が、ドラマに広がりと奥行きをもたらしている。


(upload:2022/03/27)
 
 
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