11歳の少女アナは、白血病の姉ケイトを救うために生まれてきた。これまで姉のために臓器を提供するドナーの役割を果たしてきたアナだったが、ある日、裁判所に訴えを起こす。これ以上、姉のために手術を受けることを拒否するのだ。その行動は、必死に長女を救おうとする母親サラとの間に軋轢を生み出すが……。
以前の作品『きみに読む物語』といい、この『私の中のあなた』といい、最近のニック・カサヴェテスの作品は、泣けることが売りにされているように見える。インディペンデント映画の先駆者であるジョン・カサヴェテスを父に持ち、その精神を継承するニックにしてみれば、そういう基準で見られることは、あまりありがたいことではないだろう。
『ミルドレッド』、『シーズ・ソー・ラヴリー』、『ジョンQ―最後の決断―』などを思い出せばわかるように、彼の作品の主人公たちは、人生の岐路に立たされたときに、人に頼らず、あえて困難な道を選択する。そこには、一貫して自分が自分であることや個人の自由というテーマを掘り下げる彼が導き出した答えがある。
この新作も例外ではない。キャリアや私生活を犠牲にしてケイトの命を救おうとする母親サラの姿には、誰もが深い愛情と揺るぎない信念を感じるだろう。それはまさに困難な道のように見えるが、ニックが探求する困難な道とは違う。だから、彼女の内面にさらに深く分け入り、その違いを明らかにしていく。
サラにとってケイトの存在は生き甲斐に近いが、この母と娘の認識や絆には微妙なズレがある。サラはケイトが生きつづける未来を見つめ、ケイトは未来よりも今を自分らしく生きようとする。極端な言い方をすれば、サラはケイトに依存し、お互いの自由を束縛していることになる。
そんな母親は、ケイトのドナーになるために生まれてきた妹アナの勇気ある行動をきっかけに、自分を取り戻していくのだ。 |