ニック・カサヴェテス・インタビュー
Interview with Nick Cassavetes


2009年9月 六本木
私の中のあなた/My Sister's Keeper――2009年/アメリカ/カラー/110分/シネマスコープ/ドルビーSR・SDDS
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(初出:「BRUTUS」2009年、674号)

真摯な姿勢で真実を探求しつづける
――『私の中のあなた』(2009)

 インディーズ映画の先駆者である故ジョン・カサヴェテスを父に、大女優ジーナ・ローランズを母に持つ監督ニック・カサヴェテス。彼の作品では、人生の岐路に立たされた主人公たちが、本当の自由のために困難な道を選択していく。そんなドラマには監督の人生観が反映されているように思える。

「言われてみるとそうかもしれないが、特に意識しているわけではない。人生は複雑で困難なものなので、主人公には十分に考え、適切な選択をしてほしい。私はストーリーテラーとしていつも主人公に恋をしている。だからこそ自分が彼らの立場だったら同じ選択をしたいと思っている」

 ニックの新作『私の中のあなた』では、母親のサラと白血病の娘ケイトが選択を迫られる。どんな犠牲を払ってもケイトを救おうとするサラは、娘が生き続ける未来を見つめ、ケイトは、未来よりもいまを自分らしく生きようとする。

「親というのは子供が病気になったらひとつのことしか考えられない。周囲から何を言われても、絶対に大丈夫だと思いたい。ケイトには家族を守るという責任がないし、重病であることを認め、現状を把握している。正しいのはケイトの方だが、サラは母親として娘に何が正しいのかを示さなければならない。そこが複雑なところだ。私が病気の子供であればケイトのようにありたいし、親であればサラのようにありたいと思う」

 初監督作品『ミルドレッド』が日本で公開されたとき、プレスにはニックのこんな言葉が引用されていた。「ジョンは私に本質的なことを教えてくれたのです。他人の言いなりにならず、自分自身を守り抜く。自由というものは、日々闘って勝ち取るものだ」。いまもその姿勢に変わりはないのか。

「あれから15年経っている。また『ミルドレッド』や『シーズ・ソー・ラヴリー』のような映画を作ればいいという人もいるが、私は常に違うものに興味を持ち変化する。芸術や個人主義の本質はふたつのカテゴリーに分けられる。ひとつは探求することで、もうひとつは洗練させていくことだが、私は探求しつづけることが好きなんだ。もちろん私の作品はどれも完璧だなどとは思わないが、真摯な姿勢で真理を探求しているとは思っている。ジョンは本当に偉大な監督であり、私は自分なりに仕事をしてきた。そしていつか誰かが、私が真剣に突き詰めたものを、その人なりの誠実なやり方で作り変えてくれることを望んでいる」


◆プロフィール◆
ニック・カサヴェテス
1959年5月21日、ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。ショーン・ペンとジョン・トラヴォルタが主演で、1997年カンヌ映画祭で唯一2つの賞を受賞した『シーズ・ソー・ラブリー』で注目される。ニコラス・スパークスのベストセラー小説を映画化し、ライアン・ゴスリング、レイチェル・マクアダムス、ジェームズ・ガーナー、ジーナ・ローランズが出演した『きみに読む物語』(05)や、デンゼル・ワシントン主演の『ジョンQ―最後の決断―』(02)など数々の良作を世に送り出している。監督以前は、俳優としてもキャリアを持つ。映画監督の父、ジョン・カサヴェテスの作品に子役の頃から出演し、1996年に母ジーナ・ローランズを主演に据えた『ミルドレッド』(96)で監督デビューして以来、監督業で評価を得ている。彼が追い求める映画とは、ストーリー性が高く、真実味にあふれ、誰もが共感を覚えるものでありながら、彼自身のインディペンデントなルーツに反しないという特徴を持つものである。最近、彼が監督・脚本を手掛けた作品は、実話に基づく骨太ドラマで、ブルース・ウィリス、ジャスティン・ティンバーレイク、エミール・ハーシュが出演した『アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン』<未>がある。
『私の中のあなた』プレスより引用
 

 


 ジョンは映画の資金を捻出するために、妊娠中のジーナが出産の費用として蓄えていた金を持ち出した。自宅を抵当に入れようとしたときには、ジーナが「ああ、ジョン、家はだめよ、家だけは」と嘆いたという。ジョンにとって映画作りは困難な道だった。ではニックにとってはどんな道なのか。

「ジョンはスタジオが大嫌いだったので、いろいろなものを金に換え、自分で資金を調達しなければならなかった。ジョン・カサヴェテスはひとりしかいない。彼になろうとしてもなれるものではないし、なるつもりもない。私はインディーズでもスタジオでも映画を作ってきたが、次に着手しようとしている作品は難しいので、もしかすると家を抵当に入れることになるかもしれない。これからしばらくは、まっとうな映画を作ることはないだろう。ビジネス環境も変わってきている。スタジオもインディーズ系に出資するようになった。そうすると本当のインディーズではなく、コングロマリットの一部ということにはなるが、いずれにしても私がやりたいのは型を破ることなんだ」

 ニックの二人の妹アレクサンドラとゾエも映画を作っているが、妹たちとはどのような関係を築き、彼女たちの活動をどのように見ているのだろうか。

「アレクサンドラのことはザンと呼んでいて、いま一緒に映画を作っている。ザンとゾエも他の監督たちと三部作を作っている。私たちはカサヴェテス一家なので、顔を合わせればファッションや建築や天気ではなく、映画やストーリーの話になる。ザンはファンタスティックなドキュメンタリーを作っている。たぶんゾエは私たちのなかで一番賢く、作品も洗練されている。二人とも才能があるが、映画というのは創造性の表現であると同時に商品でもあり、これからどうなっていくかはわからない。私たちは金持ちではなく、仕事として映画を作り続けていくので、彼女たちには自分の視点を見失わないでほしいと思っている」


(upload:2010/01/21)
 
《関連リンク》
『ミルドレッド』 レビュー ■
『シーズ・ソー・ラヴリー』 レビュー ■
『ジョンQ―最後の決断―』 レビュー ■
『きみに読む物語』 レビュー ■
『私の中のあなた』 レビュー ■
ニック・カサヴェテス・インタビュー 『私の中のあなた』 ■

 
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