[ストーリー] 目も眩むようなクラブの照明のなか、少女ヴィクトリアがひとり激しく踊っている。やがてフロアを離れ、バーで一杯飲み、外に出る。4人の若者に声をかけられ警戒するが、どうやら悪い人間ではないらしい。
深夜スーパーで酒を盗み、若者たちの家の屋上で酒盛りを始める。身の上話などをしながら、場所を変えて楽しい時間が流れていく。しかし、若者のひとりが大物ギャングの絡む金銭トラブルに巻き込まれていることが分かり、事態は急変してゆく――。
2015年のドイツ映画賞で主要6部門で賞に輝いたセバスティアン・シッパー監督の長編第4作です。140分近い物語が全編ワンカットで撮影されています。(2016年5月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)
ワンカットでドラマを見事に成立させた撮影監督のシュトゥールラ・ブラント・グレーヴレンが高く評価されるのは当然のことですが、緻密に計算された設定や構成も見逃せません。
ヒロインのヴィクトリアは、スペインのマドリッドからベルリンにやってきて3ヵ月になります。導入部でわかっていることは、そんな彼女が、近くのカフェで働いていて、朝の7時に店を開けなければならないということだけです。
そんな仕事があるため、カフェに戻ろうとする彼女を、若者のひとり、ゾンネが送っていきます。ふたりはカフェのなかでしばらく話をしますが、そこで、ピアニストを目指しながら挫折した彼女が、屈折した感情を抱いていることが明らかになり、後半の彼女の行動の背景を想像させる手がかりになります。
言葉の壁も効果的です。ヴィクトリアと若者たちは、片言の英語で会話しますが、彼女が事情もわからないままに運転手を引き受けたときには、車内で若者たちが揉めていてもドイツ語なので彼女にはなにが起ころうとしているのかがわからず、深みにはまることになります。
この映画は全編ワンカットなので、基本的に編集はありませんが、ニルス・フラームが手がけた音楽が、編集に近い効果を生み出しているといえます。たとえば、登場人物たちがアパートの屋上まで移動していく場面や、ひとつの山場を越えて解放感に浸る場面などでは、音声が完全に音楽に置き換えられ、それがドラマに起伏を生み、ワンカットの流れに変化をもたらしています。
「CDジャーナル」2016年5月号の映画評ページで本作のレビューを書いていますので、ぜひお読みください。
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