海と大陸
Terraferma


2011年/イタリア=フランス/イタリア語/カラー/93分/スコープサイズ/ドルビーDTS
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(初出:月刊「宝島」2013年5月号)

 

 

中央ではなく南の果ての島という周縁から
イタリア社会の歪みをしっかりと描き出す

 

 イタリアの俊英エマヌエーレ・クリアレーゼが監督した『海と大陸』の物語には、現在のイタリアが抱える社会問題が反映されている。

 その問題との繋がりで筆者が想起するのは、最近、劇映画デビュー作『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―』(11)が公開されたアンドレア・セグレが手がけたドキュメンタリーだ。彼が共同監督した『Como un uomo sulla terra / Like a Man on Earth』(08)では、リビアから地中海を渡ってイタリアにたどり着いた難民たちが苦難の道程を自ら語り、『ある海辺の詩人』のあとに発表された『Mare chiuso / Closed Sea(12)では、イタリアとリビアの間で結ばれたアフリカ難民をめぐる協定の実態が暴かれる。

 『海と大陸』の舞台になるのは、シチリアと北アフリカの中間に位置する離島リノーサ。島民は生き残りを賭けて衰退する漁業から観光業への転換を進めるが、一方ではアフリカから流れ着く難民の増加が波紋を広げている。主人公一家は、海の男である祖父が法を無視して難民の母子を救助し、家に匿ったことから、難しい選択を迫られる。

 燦々と降り注ぐ日の光と果てしなく広がる青い海。島を巡る船からカラフルな水着の観光客たちが一斉に海に飛び込む。そしてもう一方では、ぼろをまとった難民たちがすし詰めの小舟から一縷の望みを託して海に飛び込む。それが同じ海だというのは、なんとも皮肉である。

 しかしこの映画には、もうひとつの重要な問題が巧妙に埋め込まれている。ジョルジョ・ボッカが『地獄』で書いているように、イタリアにはほとんど交流のなかった二つの歴史があり、現在でも北と南で大きな社会的、経済的な格差がある。マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』に描かれるナポリを拠点にした犯罪組織“カモッラ”も、その背景には南北問題がある。


◆スタッフ◆
 
監督/原案/脚本   エマヌエーレ・クリアレーゼ
Emanuele Crialese
脚本 ヴィットリオ・モローニ
Vittorio Moroni
撮影 ファビオ・チャンケッティ
Fabio Cianchetti
編集 シモーナ・パッジ
Simona Paggi
音楽 フランコ・ピエルサンティ
Franco Piersanti
 
◆キャスト◆
 
フィリッポ   フィリッポ・プチッロ
Filippo Pucillo
ジュリエッタ ドナテッラ・フィノッキアート
Donatella Finocchiaro
エルネスト ミンモ・クティッキオ
Mimmo Cuticchio
ニーノ ジュゼッペ・フィオレッロ
Giuseppe Fiorello
サラ ティムニット・T
Timnit T.
マウラ マルティーナ・コデカーザ
Martina Codecasa
マルコ フィリッポ・スカラフィア
Filippo Scarafia
ステファノ ピエルパオロ・スポッロン
Pierpaolo Spollon
マリア ティツィアーナ・ロダート
Tiziana Lodato
サラの息子 ルベル・ツェガエ・アブラハ
Rubel Tsegay Abraha
財務警察官 クラウディオ・サンタマリア
Claudio Santamaria
-
(配給:クレストインターナショナル)
 

 南イタリアを舞台にした作品を撮りつづけるクリアレーゼ監督がそれを意識しないはずはない。民宿を始めた主人公一家の家に宿泊するのは、北から来た観光客だ。そして、一家を追い詰める高圧的な財務警察官は明らかに北を象徴している。この映画は、イタリアの中央ではなく南の果ての島という周縁から、イタリア社会の歪みをしっかりと描き出している。


(upload:2013/06/04)
 
 
《関連リンク》
『海と大陸』公式サイト ■
ブルース・グディソン 『リーヴ・トゥ・リメイン(原題)』 レビュー ■
アリーチェ・ロルヴァケル 『天空のからだ』 レビュー ■
マッテオ・ガッローネ 『ゴモラ』 レビュー ■
『ゴモラ』のすすめ+ロベルト・サヴィアーノ
『塀の中のジュリアス・シーザー』 レビュー ■
『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで』 レビュー ■
『Come un uomo sulla terra / Like a Man on Earth』 レビュー ■
『Mare chiuso / Closed Sea』 レビュー ■
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