[ストーリー] 独裁政権が支配する国。大統領とその家族は、圧政によって国民から搾取した税金で贅沢な暮しをしていた。 彼は多くの罪なき国民を政権維持のために処刑してきた冷酷で無慈悲な男だった。
ある晩、クーデターが勃発し、大統領を除いた妻や娘たちはいち早く国外へ避難する。 だが、大好きな幼なじみのマリアやオモチャと離れたくない幼い孫は大統領と残ることになる。 やがて街では民衆が暴徒化し、大統領への報復を呼び掛ける怒声と銃声が至るところで轟き、 兵士たちは反旗を翻し、独裁政権は完全に崩壊する――。
今や全国民から追われる賞金首となってしまった大統領は、 小さな孫を抱え逃亡を余儀なくされる。 二人は安全な地へ逃れるべく船の待つ海を目指す。貧しい床屋からボロボロの服を奪い、羊飼いを装ったり、 可哀そうな炭鉱婦の子供からギターを奪い、旅芸人のように振る舞い、 憐れな死体から赤いスカーフを奪い、孫を女の子に見せかけ、 変装で素性を隠しながら、大統領と孫は海を目指す。[プレスより引用]
モフセン・マフマルバフ監督の新作『独裁者と小さな孫』では、クーデターが起こる国も独裁者の名前も特定されていない。だが、この映画は、現実の独裁政権崩壊のドラマを思い出させる。
たとえば、イラクはどうなったか。イラク戦争によってサダム・フセインの独裁政権は崩壊した。独裁者は、逃亡、潜伏、拘束、裁判、処刑という運命をたどった。しかし、独裁者が消えても、平和は訪れなかった。イラク戦争は泥沼化した。その要因としては、戦争の遂行した頭になかったアメリカの国防総省が、戦後の復興を亡命イラク人に任せたことや、何の受け皿もなくバース党の構成員を公職追放し、イラク軍を解隊したことなどが挙げられる。
では、リビアはどうなったか。“アラブの春”と欧米の軍事介入によってカダフィの独裁政権は崩壊した。独裁者は、逃亡、潜伏、抵抗、死亡という運命をたどった。しかし、独裁者が消えても、平和は訪れなかった。独裁政権の高官や軍閥化した反カダフィ勢力、戦闘的なイスラム勢力などが権力争いを繰り広げ、混乱に陥った。
この映画は、失墜し、逃げ惑う独裁者を追いながら、その背景で同じような悲劇が起こりつつあることを想像させる。そして、もうひとつ重要なのが、独裁者に彼の孫が同行していることだ。そんな他者の存在と眼差しが、独裁者の人間性を鋭く掘り下げていくことになる。もし孫が同行していなければ、この独裁者はまったく違った顔を見せ、違った運命をたどっていただろう。 |