チャップリンからの贈りもの
La rancon de la gloire / The Price of Fame  La rancon de la gloire
(2014) on IMDb


2014年/フランス/カラー/115分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:月刊「宝島」2015年8月号)

 

 

78年の“チャップリン遺体誘拐事件”を題材に
現代の格差社会に揺さぶりをかける

 

[ストーリー] 70年代、スイス・レマン湖畔の小さな町ヴヴェイ。刑務所を出たエディは、友人オスマンに迎えられ、彼の家にやっかいになることに。真面目に働くオスマンだが、エディ同様、移民であるため生活は貧しい。しかも、娘はまだ小さく、入院中の妻の医療費がかさみ、苦境に立たされる。そんな時テレビから“喜劇王チャップリン死去”というニュースが。

 エディは埋葬されたチャップリンの柩を盗み身代金で生活を立て直そうと、弱気のオスマンを巻き込んで決死の犯行へ。ところが、詰めの甘い計画は次々にボロを出すばかりか、ツキのなさにも見舞われて崩壊寸前。あきらめかけた時、追いつめられたオスマンが最後の賭けに出た。人生のどん底のふたりに救いの手は差し伸べられるのか――。[プレス参照]

 『マチューの受難』(00)、『若き警官』(04)、『神々と男たち』(10)で知られるフランスの異才グザヴィエ・ボーヴォワ監督の新作です。エディを『ナルコ』(04)、『ココ・アヴァン・シャネル』(09)のブノワ・ポールヴールド、オスマンを『約束の旅路』(05)、『若き警官』ロシュディ・ゼム、エディをサーカスに導くローザを、『めざめ』(02)、『クリスマス・ストーリー』(08)のキアラ・マストロヤンニが演じています。

[以下より本作のレビューになります]

 フランスの異才グザヴィエ・ボーヴォワの新作『チャップリンからの贈りもの』は、78年にスイスで実際に起きた“チャップリン遺体誘拐事件”に基づいている。

 主人公のエディと友人のオスマンはともに貧しい移民だ。オスマンは真面目に働いているが、入院した妻の治療費がかさみ苦境に立たされる。刑務所を出てオスマンの家に厄介になっているエディは、チャップリン死去のニュースを見て遺体誘拐を思いつき、オスマンも巻き込んで計画を実行するが――。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   グザヴィエ・ボーヴォワ
Xavier Beauvois
脚本 エチエンヌ・コマール
Etienne Comar
撮影監督 カロリーヌ・シャンプティエ
Caroline Champetier
編集 マリー=ジュリー・マイユ
Marie-Julie Maille
音楽 ミシェル・ルグラン
Michel Legrand
 
◆キャスト◆
 
エディ・リカルト   ブノワ・ポールヴールド
Benoit Poelvoorde
オスマン・ブリチャ

ロシュディ・ゼム
Roschdy Zem

サミラ セリ・グマッシュ
Seli Gmach
ローザ キアラ・マストロヤンニ
Chiara Mastroianni
ヌール ナディーン・ラバキー
Nadine Labaki
ジョン・クルーカー ピーター・コヨーテ
Peter Coyote
若い警部 アーサー・ボーヴォワ
Arthur Beauvois
-
(配給:ギャガ)
 

 邦題はほのぼのしているが、『若き警官』『神々と男たち』の監督はそれほど甘くない。彼は時代設定にとらわれずに鋭い洞察で人物や状況を掘り下げ、現代にも通じる世界を切り拓く。この映画では主人公たちが墓を暴き、盗んだ柩を別の場所に埋め戻す様子がはっきり描かれる。そうすることで、亡くなったチャップリンもドラマの登場人物にしてしまう。

 映画の原題は訳せば「名声の代償」になるが、チャップリンならそれをどう払うのか。その答えはエディが暗示している。彼はひょんなことからサーカスの道化師の代役を務め、天職に目覚めるからだ。

 孤独に追いやられ危うい綱渡りを演じる道化は、社会を映す鏡にもなる。私たちは、この遺体誘拐騒動を見ながら、実際に事件が起こった時代と、ウォール街占拠運動やトマ・ピケティが注目を集める現代では、「名声の代償」が持つ意味がさらに重くなっていることに気づく。

 ボーヴォワは、柩の中の見えないチャップリンという存在を巧みに主人公と結びつけ、道化を演じさせることで、現代の格差社会に揺さぶりをかけている。


(upload:2015/08/03)
 
 
《関連リンク》
グザヴィエ・ボーヴォワ 『神々と男たち』 レビュー ■
グザヴィエ・ボーヴォワ 『若き警官』 レビュー ■
ジル・ルルーシュ 『ナルコ』 レビュー ■

 
 
 
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