主人公ギュスの父親は、アメリカのB級映画とフランク・シナトラに熱中している。ナルコレプシーという厄介な病に悩まされるギュスは、夢のなかでは好戦的なアメリカン・ヒーローになる。結婚した彼は、アメリカン・ウェイ・オブ・ライフを象徴する人工的なサバービアに転居する。ギュスの親友レニーは、ジャン=クロード・ヴァンダムを崇拝し、最強の空手家を目指している。
トリスタン・オリエとジル・ルルーシュのコンビが監督したこの映画に描き出されるフランスには、アメリカ文化が浸透している。彼らは、それを単純に賛美したり、風刺したりしているわけではない。
注目しなければならないのは、“アメリカの夢”に対する視点だ。ジュスに絡む人物たちが、そろってコンプレックスを抱えているのは偶然ではない。彼らは、空手家や漫画家、コメディアン、アイススケーターになる夢に囚われ、抑圧されている。
そんな姿は、トッド・ギトリンの以下のような言葉を思い出させる。「そもそも自己の帰属性や価値について自信が持てなくなった時、不安に駆られるのは自然な反応であるが、中でもアメリカ人は人に認められること、排除されることを恐れること、帰属意識をもつこと、自分が価値ある人間だと自覚することに誰よりも敏感な国民である」
この映画では、夢と抑圧をめぐって、ナルコレプシーとアメリカの夢が巧みに結びつけられていく。病のために仕事につけないギュスは、自分が見る夢をコミックにすることを思いつく。そして、成功の夢に抑圧される人物たちは、彼の夢の産物と名声と富を横取りしようとする。
70年代生まれで、押し寄せるアメリカ文化のなかで育った監督コンビは、コンプレックスの連鎖から生まれる奇想天外なドラマを通して、アメリカの夢という幻想を浮き彫りにしていくのだ。 |