クリスマスに子供たちが両親の家に集い、騒動が巻き起こる。アルノー・デプレシャン は新作『クリスマス・ストーリー』で、実に鮮やかな映画の魔術によってそんなありふれた物語を異なる儀式に変えてみせる。
映画は家族にまつわる昔話から始まる。アベルとジュノンの夫婦は、まず長男ジョゼフを、その2年後に長女エリザベートを授かった。だが4歳のジョゼフが白血病と診断される。家族の中に骨髄移植の適合者がいないことを知った夫婦は、次男のアンリをもうけるものの結果は同じだった。ジョゼフは6歳で亡くなり、不運なアンリは生まれながらに“役立たず”の汚名をきせられることになった。
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一家の問題児となったアンリは5年前に多額の借金を背負い、その尻拭いをした戯曲家の姉エリザベートから“追放”という厳しい処分を受けていた。ところが、母ジュノンが白血病と宣告されたことをきっかけとして、クリスマスに久しぶりに家族が揃い、そこでエリザベートの息子で、精神を病んでいるポールと問題児アンリが骨髄移植の適合者であることが判明する。
デプレシャンはそんな家族から、それぞれの喪失感を炙り出していく。映画の導入部にはジョゼフの葬儀が挿入され、そこで父のアベルは、ジョゼフの息子として生きると宣言する。そんなアベルは、クリスマスで再会した三男のイヴァンに、彼がもっと早く生まれていればジョゼフは助かったかもしれないと語る。また、ジャズ・ファンであるこの父親が聴き入る音楽が、ミンガスの<Reincarnation of a Lovebird>であることにも注目すべきだろう。
エリザベートはセラピストに対して、自分のなかにはずっと喪のような悲しみがあるが、誰に対するものなのかわからないと語る。アンリは妻を事故で亡くすという喪失を背負い、それ以来、アル中になっている。
イヴァンは家族の昔話とは無関係に見えるが、若い頃はかなり不安定で、自分を取り巻く世界に恐怖感を持っていたと思われる。その痕跡は彼の幼い息子たちの行動に表われている。兄弟は地下室に潜んでいるという狼を玩具の弓矢で退治しようとするのだ。一方、エリザベートの息子ポールは、家にいるはずのない黒い犬を目にする。
家族の喪失感は幽霊を招き寄せ、彼らはそれぞれに過去と向き合う。つまり、久しぶりに家族が揃うクリスマスの時間は、喪に服すための異界を形成していく。そして、そんなドラマをさらに際立たせるのが、戯曲家としてのエリザベートだ。
冒頭の家族の昔話は影絵で表現され、彼女の声が物語を語る。彼女は登場人物の運命を支配する戯曲家のようにアンリを追放するが、結末は筋書き通りにはならない。そして、自宅に戻った彼女が、「われらはみな影法師〜」という『真夏の夜の夢』の台詞を口にするとき、それがあたかも呪文であったかのように喪が明けるのだ。