『マチューの受難』(00)につづくグザヴィエ・ボーヴォワ監督の長編第4作です。タイトルになっている“若き警官”とは、ル・アーブル育ちで、警察学校を卒業してパリにやって来たアントワーヌのことを指しています。教師をしている彼の妻はパリ行きに乗り気ではなく、一人暮らしが始まります。
そしてもう一人の主人公が、キャロリーヌ・ヴォデューです。アルコール中毒を克服して、仕事に復帰してきた彼女は、アントワーヌを自分の捜査班に加えます。好奇心旺盛なアントワーヌは、仲間のひとり、ソロがアラブ系であることにも関心を持ちます。再び指揮をとることになったキャロリーヌは、熱意溢れるアントワーヌに親近感を抱くようになります。
彼らが扱うのは、セーヌ河畔で遺体となって発見されたホームレスの事件で、ロシア系の容疑者が浮かび、他の事件ともリンクしていきますが、派手なアクションなどはありません。それでもドラマに深く引き込まれます。
ボーヴォワ監督が生み出すドラマには、独特の話術が潜んでいるように思えます。ドラマの途中から、主人公たちがある種の“宙吊り”状態になり、時代や場所に縛られない世界が広がります。
たとえば、『神々と男たち』(10)の物語は、1996年にアルジェリアで起きたGIA(武装イスラム集団)によるとされるフランス人修道士誘拐・殺害事件に基づいています。ということは、結果は最初からわかっているのですが、その前に、内戦が激化するなかで修道士たちが土地に留まるかどうかの選択を迫られるという宙吊りの状態があります。ボーヴォワはその部分を重視し、掘り下げています。 |