若き警官
Le petit lieutenant / The Young Lieutenant Le petit lieutenant (2005) on IMDb


2005年/フランス/カラー/110分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

主人公が宙吊り状態になることから切り拓かれる
時代や場所に縛られないボーヴォワならではの世界

 

 『マチューの受難』(00)につづくグザヴィエ・ボーヴォワ監督の長編第4作です。タイトルになっている“若き警官”とは、ル・アーブル育ちで、警察学校を卒業してパリにやって来たアントワーヌのことを指しています。教師をしている彼の妻はパリ行きに乗り気ではなく、一人暮らしが始まります。

 そしてもう一人の主人公が、キャロリーヌ・ヴォデューです。アルコール中毒を克服して、仕事に復帰してきた彼女は、アントワーヌを自分の捜査班に加えます。好奇心旺盛なアントワーヌは、仲間のひとり、ソロがアラブ系であることにも関心を持ちます。再び指揮をとることになったキャロリーヌは、熱意溢れるアントワーヌに親近感を抱くようになります。

 彼らが扱うのは、セーヌ河畔で遺体となって発見されたホームレスの事件で、ロシア系の容疑者が浮かび、他の事件ともリンクしていきますが、派手なアクションなどはありません。それでもドラマに深く引き込まれます。

 ボーヴォワ監督が生み出すドラマには、独特の話術が潜んでいるように思えます。ドラマの途中から、主人公たちがある種の“宙吊り”状態になり、時代や場所に縛られない世界が広がります。

 たとえば、『神々と男たち』(10)の物語は、1996年にアルジェリアで起きたGIA(武装イスラム集団)によるとされるフランス人修道士誘拐・殺害事件に基づいています。ということは、結果は最初からわかっているのですが、その前に、内戦が激化するなかで修道士たちが土地に留まるかどうかの選択を迫られるという宙吊りの状態があります。ボーヴォワはその部分を重視し、掘り下げています。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   グザヴィエ・ボーヴォワ
Xavier Beauvois
脚本 Guillaume Breaud, Jean-Eric Troubat
撮影 キャロリーヌ・シャンプティエ
Caroline Champetier
編集 マルティーヌ・ジョルダーノ
Martine Giordano
 
◆キャスト◆
 
キャロリーヌ・ヴォデュー   ナタリー・バイ
Nathalie Baye
アントワーヌ ジャリル・ルペール
Jalil Lespert
ソロ ロシュディ・ゼム
Roschdy Zem
ルイ・マレ アントワーヌ・シャピー
Antoine Chappey
Le juge Serge Clermont ジャック・ペラン
Jacques Perrin
L’Anglais ブルース・マイヤーズ
Bruce Myers
Le lieutenant Patrick Belval パトリック・ショウヴェル
Patrick Chauvel
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(配給:)
 

 『チャップリンからの贈りもの』(14)も、78年の“チャップリン遺体誘拐事件”に基づいているので、結果はわかっていますが、誘拐の過程に宙吊りの状態が生まれます。ボーヴォワはそれを利用して、永眠したチャップリンをもう一人の主人公に仕立て上げているといえます。

 そして本作の場合には、まだ見習いの立場で不安を抱えるアントワーヌと、ブランクを経て以前と同じように指揮がとれるのかという不安を抱えるキャロリーヌを絡ませることで、彼らだけの宙吊りの状態が生み出されます。キャロリーヌの死んだ息子が生きていれば、アントワーヌと同じ年だったという事実もポイントになります。

 ル・アーブルから出てきた妻の温もりを求めようとするアントワーヌや、断酒会に顔を出し、離脱症状に苦しむ参加者を見つめるキャロリーヌには、孤独と不安を垣間見ることができます。そういう宙吊り状態から広がるドラマの世界が、時代や場所を越えて私たちを深く引き込むのではないかと思います。本当に素晴らしい作品です。


(upload:2015/06/30)
 
 
《関連リンク》
グザヴィエ・ボーヴォワ 『チャップリンからの贈りもの』 レビュー ■
グザヴィエ・ボーヴォワ 『神々と男たち』 レビュー ■
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