ハッピーエンドが書けるまで
Stuck in Love  Stuck in Love
(2012) on IMDb


2012年/アメリカ/カラー/97分/スコープサイズ
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(初出:)

 

 

著名な作家と作家を目指す子供たちの物語
感謝祭の食卓とレイモンド・カーヴァー

 

[ストーリー] 著名な作家ビル・ボーゲンズは、3年前に妻エリカと離婚してからスランプに陥り、エリカと彼女の新しいパートナーの生活を覗き見したり、隣人の人妻と不倫する日々を送っている。そんなビルは、ふたりの子供たちが作家になるように指導してきた。

 娘のサマンサは、大学の創作科で学び、小説の出版が決まったばかりだ。父親を捨てて、他の男に走った母親を憎む彼女は、恋愛で傷つくことを恐れ、壁を作っていたが、真面目なクラスメートのルーに声をかけられ、次第に心を開くようになる。高校に通う息子のラスティは、クラスメートのケイトに想いを寄せているが、彼女を見つめることしかできない。それを察した父親から経験を積むようにアドバイスされた彼は、ケイトがいるパーティに大胆に乗り込み、ふたりは心を通わせるようになるが、彼女はドラッグの問題を抱えていた。

 アメリカの新鋭ジョシュ・ブーンのデビュー作『ハッピーエンドが書けるまで』は、感謝祭で始まり、あらたにめぐってくる感謝祭で終わる。その間にあるドラマによって、ふたつの感謝祭の食卓を囲む顔ぶれが変わることになる。作家のビルは自分で七面鳥を調理する。作家と作家の卵の一家の物語なので、様々な本や本の話題が出てくるのは当たり前だが、脚本も手がけているブーンはきっと本の虫なのだろう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ジョシュ・ブーン
Josh Boone
撮影 ティム・オアー
Tim Orr
編集 ロブ・サリバン
Robb Sullivan
音楽 マイク・モーギス、ネイト・ウォルコット
Mike Mogis, Nate Walcott
 
◆キャスト◆
 
ビル・ボーゲンズ   グレッグ・キニア
Greg Kinnear
エリカ ジェニファー・コネリー
Jennifer Connelly
サマンサ(サム) リリー・コリンズ
Lily Collins
ラスティ ナット・ウルフ
Nat Wolff
トリシア クリステン・ベル
Kristen Bell
ルイス(ルー) ローガン・ラーマン
Logan Lerman
ケイト リアナ・リベラト
Liana Liberato
-
(配給:AMG エンタテインメント)
 

 ラスティはスティーヴン・キングを敬愛し、ファンタジーを書いている。別れた妻エリカはベッドでジョーン・ディディオンを読んでいる。ビルはデッキチェアに座って、リチャード・フォードを読んでいる。ビルがラスティに経験を積むようにアドバイスするときには、フラナリー・オコナーに言及する。ビルとエリカが、サマンサの出版記念パーティで話をするときには、ジョン・チーヴァーの話題が出る。ビルが最も好きな作家はレイモンド・カーヴァーで、出版記念パーティのスピーチでは、カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」を引用し、ラストの感謝祭の食卓でも同じ引用でドラマが締め括られる。

 このように書くと、いかにも文学的なテイストの作品と誤解されそうだが、基本的にはあくまでロマンティック・コメディ/家族画/青春映画であり、リアルなドラマというよりいくぶん現実離れした世界だと思っておいたほうがいい。カーティス・ハンソンの『ワンダー・ボーイズ』(00)のような深みはないが、そこらへんを割り切ったうえでのストーリーテリングは巧みだ。『ベティ・サイズモア』(00)、『ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター』(02)、『ファーストフード・ネイション』(06)のグレッグ・キニアは、渋味も出している。ラスティを演じたナット・ウルフの個性が光る。


(upload:2015/02/17)
 
 
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