[ストーリー] ノルウェーのオスロ。主人公ロイは“歩き回ること”だけが特技のさえないポストマン(郵便配達員)。退屈な毎日にうんざりして、ときには他人の手紙を開けたりするいけないヤツだ。そんな彼がある日出会った女性リーナ。偶然、彼女が郵便受けに忘れていった鍵で部屋に入り込んだロイは、かかってきた電話の留守録を聞いて、犯罪の臭いを嗅ぎとる。彼女の部屋に隠されていた大金、病院で手当を受ける瀕死のガードマン、彼女を脅す男の影――。事件の真相がわかってくるにつれ、リーナへの思いは募るばかり。やがてロイは、リーナの身を守るために、その危険な男に近づいていく。[プレスより]
ノルウェーの新鋭ポール・シュレットアウネの長編デビュー作『ジャンク・メール』では、ふたつの要素がそのドラマを興味深いものにしていく。
ひとつは“偶然”についての考察だ。たとえば、郵便配達員のロイが、リーナの部屋の鍵を手に入れるのは、彼女が外出する前に郵便受けをチェックし、そこにうっかり鍵をさしたままにしてしまうからだが、本当はもう少し複雑だ。
私たちは、その前にロイがそのアパートに配達したときのことを思い出さなければならない。そのときポストに郵便物を振り分けていたロイは、階段を下りてきた別の住人に、彼宛の郵便があるか先に確認するようにせかされる。これにカチンときたロイは、彼宛の郵便だけを隠し、なにも見つからなかったように振る舞う。
そのあと、ロイはその郵便を持ち帰り、自分のアパートで開封し、中身を見る。そして、先に触れた配達の場面になる。ロイは開封したことがバレバレの郵便をその住人のポストに入れる。待ち構えていた住人は、ロイに抗議するが、彼は取り合わない。そこにリーナが階段を下りてきて、自分の郵便をチェックしようとする。気がおさまらない住人は、ロイではなく、リーナに郵便物を開封されたことを訴えようとする。彼女は関わりたくないので(あるいは補聴器をしていなくて聞き取れなかったのか)、急いで立ち去ろうとして、鍵を抜くのを忘れる。ということは、鍵を忘れる偶然は、ロイが準備したともいえる。
もうひとつの例を挙げてみよう。ロイは配達中にジャンキーに襲われて病院にかつぎ込まれる。そのために、病院に現れたリーナが、強盗に襲われたガードマンの容態を確認するのを目にすることになり、彼女と事件の関わりに気づいていく。
このエピソードにももう少し複雑な偶然が隠れている。ロイの同僚や友人は、ジャンキーに襲われたときに郵便物を放り出すべきだったと考える。実は彼もそうしようと思った。だが、ショルダーが服に絡んで、放り出すことができなかった。その結果、負傷して病院に運ばれることになった。そして、郵便物を守ろうとしたことを評価され、局長から記念の時計を授与される。その時計が、後に彼を深刻なトラブルに巻き込む。 |