ノルウェーのポール・シュレットアウネ監督の『チャイルドコール 呼声』は、ヒロインのアナが、夫の暴力から逃れるために、保護監視プログラムに従って8歳の息子アンデシュとオスロ郊外のアパートに引っ越してくるところから始まる。それでもまだ不安な彼女は、家電量販店で“チャイルドコール”と呼ばれる監視用音声モニターを購入し、息子の寝室に据えつける。
ある晩、そのモニターから悲鳴を聞いたアナは、子供部屋に駆けつけるがなにも異変は起こっていなかった。家電量販店で働くヘルゲは、その原因を混線によるものと説明する。アナは、アパートの他の部屋で虐待が行われていると考え、部屋を特定しようとするが、次第に混乱に陥り、現実が揺らいでいく。
このドラマには説明のつかないことがいくつも起きる。アナは、虐待が疑われる隣人のことを調べるうちに、森のなかの湖にたどり着くが、再びその場所を訪れると湖が駐車場に変わっている。彼女は保護司からセクハラを受けているが、その人物は保護司ではないことがわかる。
アナに招かれたヘルゲは、彼女の部屋に居合わせたアンデシュの友だちをアンデシュだと思い込むが、なぜそこに友だちがいるのか、あるいはなぜヘルゲに少年が見えたのかがやがて謎になる。
しかしこの映画は、辻褄を合わせることばかりにとらわれてしまうと、ダイナミズムが失われてしまう。おそらくシュレットアウネ監督は、単に面白いスリラーを作ろうとして知恵を絞っているわけではない。
J・アラン・ホブソンの『夢に迷う脳』では、私たちが見る夢と精神錯乱に共通する特徴(具体的には、幻覚、失見当識、近時記憶障害、作話、情動の過剰な高揚など)が、同じような脳の器質的な変化から生じていることが明らかにされる。それはどういうことか。ホブスンは以下のように説明している。
「夢を見ている時、私たちは精神疾患者の心脳状態(「心脳」とは、心と脳のユニットを意味するホブソンの造語)を体験しているわけである」→「もっと厳しい言い方をすると、夢を見るとは、心脳にやがて生じる老化や衰退という一種の精神錯乱を、前もって体験していることになる」 |