『3人のアンヌ』は、監督ホン・サンスと女優イザベル・ユペールのコラボレーションが生み出すパラレル・ワールドだ。成功した映画監督、不倫中の人妻、離婚したばかりの女性。それぞれに異なる目的で海辺の街モハンにやって来る3人のアンヌをめぐる3つの物語はどこかで繋がっているようにも見える。
韓国という異国にやって来た(英語のタイトルは“In Another Country”)フランス人女性と彼女が出会う韓国人男性とのぎこちないコミュニケーションや勝手な思い込みが笑いを誘う。
どの物語でもアンヌは同じ情熱的なライフガードに出会うが、いずれの場合ももうひとりの男が微妙に絡む三角関係があり、それぞれのアンヌの立場や気分によって、相手の態度がうっとうしくなったり、心をくすぐったりする。
そんなドラマから浮かび上がってくる男女の感情の曖昧さはホン・サンスならではだといえる。但し、この監督のファンとしてはどこか物足りなさを感じないでもない。
近作でいえば、『教授とわたし、そして映画』のような現実と映画の関係についての考察とか、『ハハハ』のような現実に対する視点の転換とか、そういうひねりが見られない。
ある事情で海辺の街にいる映画学校の学生ウォンジュが、気まぐれで書き出した脚本からパラレル・ワールドが生まれ、そのなかでは、アンヌが映画監督であったり、愛人が映画監督であったりするというように、映画に絡む仕掛けが埋め込まれているように見える。
しかし、脚本を書くウォンジュの現実の世界と脚本から生まれたアンヌをめぐる映画の世界が、3つの物語の進行とともに変化するわけではない。基本的な図式は変わらない。パラレル・ワールドに映画監督が登場するからといって、その人物が映画監督でなければ起こりえないようななにかが起こるわけではない。
つまり、映画学校の学生も映画監督も、あくまで設定にとどまっている。 |