さらに本作には、そんなガミの存在を異化していく仕掛けが施されている。見逃せないのは、どの物語にもガミが思わぬかたちで旧友の人間関係を知るエピソードが盛り込まれていることだ。一話では、防犯カメラでヨンスンと隣人の娘のやりとりを見ることで、先輩が娘の心の支えになっていることを察する。二部では、インターホンのモニターで、スヨンが彼女に付きまとう若い詩人に罵声を浴びせ、追い返す様子をじっと見ている。
劇中でともに年齢が26くらいと説明される隣人の娘と若い詩人は、その場面だけを見れば、二人の先輩とガミが分かち合う時間に割り込んでくる存在だが、本作の緻密な構成を通して見ると、そうともいえなくなる。三話それぞれの冒頭では、これからガミと再会する旧友がただ映し出されるだけではなく、伏線が埋め込まれている。
ヨンスンは、不安を抱えて面接に行く隣人の娘を励まし、見送る。スヨンは、かかってきた電話を無視する。その時点では相手が誰かわからないが、後に詩人だと想像がつく。つまり、ガミが現れる前から、ヨンスンは娘のことを気にかけ、スヨンは詩人のことで気を揉んでいる。だからそれぞれに当人と対面して感情が露わになる。その時、娘や詩人と存在感が希薄なガミの立場が逆転し、ガミが傍観者や闖入者のように見えてくる。
そうなると、パターンが少し異なる三話で伏線がどう変わるのかが興味深くなる。その冒頭で描かれるウジンと部下の会話からは、ウジンが、人気が出たことで変わった夫に疑問を抱き、疲れを覚えていることがわかる。
そんなウジンが偶然にガミと再会し、和解することでこの伏線が生きてくる。夫に不満を持つ彼女にとって、昔から夫のことを知っているガミは腹を割って話ができる相手だからだ。そこでウジンは、テレビやインタビューで同じ話ばかり繰り返し、真実味がない夫を痛烈に批判する。
図らずもウジンと夫の関係に巻き込まれたガミは、もはや傍観者や闖入者ですらなく、行き場のない虚ろな存在であることを露呈する。美しい山々に囲まれた町で、逃げるように海に引き寄せられていく彼女の姿には寂寥感が漂い、忘れがたい印象を残す。 |