[Introduction] イラン映画界でコンビで活動するベタシュ・サナイハとマリヤム・モガッダム。サナイハは、監督、脚本、編集を、モガッダムは、監督、脚本、女優をこなすが、コンビが手がけた最初の長編劇映画になる本作では、ふたりで脚本を書き、サナイハが監督と編集にあたり、モガッダムが、マソー役として出演している。彼らが描くのは、結婚することなく定年を迎え、母親も亡くなり、孤独な生活を送る60歳の男が、テヘランに行って30年間も会っていなかった唯一の友だちを探す物語。
主人公は、たばこ会社を定年になり、一緒に暮らしていた母親も亡くなり、孤独な生活を送る60歳の男マヌーチャー。パンを買いに行き、ベランダの花に水をやり、表をボーっと眺めるだけの単調な毎日。そして定年になったのに会社に行き、倉庫から椅子を出してきて、仕事をしているかのように過ごす。
そんなある日、彼は身支度を整えてテヘランに向かう。30年も会っていない唯一の友だち、コスロウを探すために。テヘランで、コスロウが暮らしていたと思われる住所を訪ね歩くが、なかなか手がかりをつかめず、安いホテルに泊まることにするが、そこで若い男女ふたりと交流を持つことになる。
ひとりは、そのホテルでクラークとして働くカーベエ。一見、陽気に振る舞ってはいるが、厭世観にとらわれていて、マリファナで現実逃避し、この世界から逃れるために火星に移住する計画を立てている。もうひとりは、カーベエの友人の女性マソー。彼女は祖母と同居して、面倒を見ていたが、パニック障害で入院し、治療の途中で病院を逃げ出して、居場所がないためにそのホテルに居ついている。
ただし、カーベエがいるとはいえ、マソーにとってそのホテルも安全な場所とは言い難い。マヌーチャーがチェックインするとき、ちょうど警官たちがホテルにやってきて、宿泊客のパスポートなどを確認する。ロビーにひとりでいるマソーを不審に思った警官に対して、カーベエは、彼女は通訳でもうすぐ帰るところだと説明する。 |