ともに映像作家であると同時に人類学者でもあるルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・パラヴェル。そんな二人が巨大な底引網漁船に乗り込んで作り上げた『リヴァイアサン』は、ただ過酷な操業を映し出すようなドキュメンタリーではない。
その斬新な視点は、数年前に公開されたミケランジェロ・フランマルティーノの『四つのいのち』と比較してみるとわかりやすい。南イタリアの山深い村を舞台にした『四つのいのち』では、牧夫と子山羊と大木と炭が対等なものとしてサークルを形成し、人間中心主義を脱却した世界が切り拓かれていた。但しそれは、フィクションの力も借りて構築したヴィジョンだった。
つまり、頭では想像できても、目の前の現実だけからそんな世界を切り拓くのは容易ではない。だから、『リヴァイアサン』の二人の映像作家が、最初はまったく海を映すこともなく、漁業についての映画の企画を進め、偶然も手伝って海と遭遇し、小型カメラ「GoPro」を駆使して脱人間中心主義の視点にたどり着いたという事情も逆に頷けるものがある。
この映画では、人間の常識ではありえない場所にカメラが据え付けられ、複数の視点から操業をめぐる世界が生々しく映し出される。私たちは、黒々として不気味にうねる大海原を溺れるように浮き沈みし、網に捕らえられ塊となって引き上げられていく無数の魚や獲物をかぎつけて上空を飛び回るカモメの群れと視点を共有する。さらに、魚を選り分けて手際よくさばいていく漁師の身体や甲板に放り出されて海水に洗われる魚にも異様に接近する。 |