『The Lady 〜』で、母を見舞うために帰国したスーチーは、市民が兵士に射殺されるのを目の当たりにし、呆然と立ち尽くす。イギリスで家族と平穏な暮らしを送ってきた彼女は、いきなり切迫した状況のなかに放り出され、変貌を遂げていく。これまで人前で話をしたこともなかった主婦が、広場を埋め尽くす大群衆を前に毅然とした態度で演説を行い、指導者としてのオーラを放ち出すのだ。
『The Lady 〜』は、スーチーと彼女の夫マイケルの愛の物語でもある。ふたりは、遠く隔てられ、電話でも十分に言葉を交わすことが許されないが、それでも精神的に深く結ばれている。これまで海という自然や歴史、架空の物語のなかに自分の世界を切り拓いてきたベッソンは、『The Lady 〜』の脚本に出会うことによって、現実のなかに自分の世界を見出した。だからこの映画は、スーチーの愛と闘いをリアルに描き出すと同時に、ベッソンの感性や資質が反映された人間ドラマにもなっている。