グリーン・デスティニー
臥虎藏龍 / Crouching Tiger, Hidden Dragon  Wo hu cang long
(2000) on IMDb


2000年/アメリカ=中国/カラー/120分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:「Pause」2000年)

 

 

伝統の呪縛と男女のコントラスト

 

 アン・リー監督の『グリーン・デスティニー』の舞台は19世紀初頭の中国。剣の達人としてその名を天下にとどろかせたリー・ムーバイは、引退を決意し、女弟子ユー・シューリンに伝説の名剣“グリーン・デスティニー”を北京のティエ氏に届けるように頼む。そのユーは、ティエ氏の屋敷で隣人である貴族の娘イェンと出会う。彼女は剣士になる夢を抱いていたが、身分や家の事情で嫁がなければならない。だがその夜、伝説の名剣が何者かに奪われる。

 ワイヤーアクションを駆使したこの作品は、ヒロインであるイェンの存在が際立つ女性映画になっているが、その一方で、アン・リーが男をどう描いているかということも見逃せない。アン・リー作品の男性像にはある種の共通点がある。彼らはそれぞれに壁に突き当たっていながら、その壁を直視することができず、孤立している。

 アン・リーの長編デビュー作『推手』で、中国から息子夫婦が暮らすアメリカに引っ越してきた父親は、中国社会の混乱のなかで多くのものを犠牲にし、太極拳を支えにしている。だが、アメリカの生活のなかでは、ある意味でその太極拳が彼を孤立させることになる。

 台湾が舞台の『恋人たちの食卓』に登場する父親は、大陸の中国料理の伝統を極めることで、自己のアイデンティティを確認している。そんな彼の料理は、ホテルの厨房であれば絶対的なものだが、娘たちと過ごす日曜日の晩餐では、腕を振るえば振るうほど娘たちを遠ざけてしまう。本来ならその料理は彼女たちと心を通わせるためにある。しかし父親は心を開いているつもりで、実は料理を極めることに逃避している。彼の味覚が失われていくのは、料理に大切なものが欠けているからなのだ。


◆スタッフ◆
 
監督・製作   アン・リー
Ang Lee
製作総指揮 ジェームズ・シェイマス、デヴィッド・リンド
James Schamus, David Linde
原作 ワン・ドウルー
Wang Du Lu
脚本 ワン・ホエリン、ジェームズ・シェイマス、ツァイ・クォジュン
Wang Hui-Ling, James Schamus, Tsai Kuo Jung
撮影 ピーター・パウ
Peter Pau
編集 ティム・スクワイアズ
Tim Squyres
音楽 タン・ドゥン
Tan Dun
 
◆キャスト◆
 
リー・ムーバイ   チョウ・ユンファ
Chow Yun-Fat
ユー・シューリン ミシェル・ヨー
Michelle Yeoh
イェン チャン・ツィイー
Zhang Ziyi
ロー チャン・チェン
Chang Chen
ジェイド・フォックス チェン・ペイペイ
Cheng Pei-pei
ティエ氏 ラン・シャン
Lung Sihung
ユィ長官 リー・ファーツォン
Li Fa Zeng
ユー夫人 ハイ・イェン
Hai Yan
-
(配給:SPE)
 

 新作に登場する剣の達人リーにも同じことがいえる。彼は瞑想修行を途中で放棄し、女弟子ユーの前に現れ、修行のなかで悟りの境地に至るのではなく、深い哀しみを感じたと語る。ふたりはお互いに惹かれあっているが、しきたりや使命に忠実な彼らは心を開くことができない。それゆえ彼は、自分の師匠を殺した仇を追い求め、修行に専念してきたのだが、そこに出口を見出せるはずもなく、ついに剣を置く決意をする。

 料理や剣術など、ひとつの道を極めることは素晴らしいことだが、それは時として伝統を固守し、男と女を制度で縛り、自由を奪うことにも繋がる。

 この新作で、リーがイェンを弟子にしようと思うのは、彼女に剣としての素質があるからだけではない。貴族の娘でありながら、あらゆるしきたりを打ち破る激しさを内に秘めているからだ。そして映画のラストで、彼らはそれぞれのやり方で伝統の呪縛から自分を解き放つことになる。


(upload:2013/01/22)
 
 
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