ウォン・カーウァイの新作『2046』は、主人公チャウが『花様年華』の物語を引き継ぐようにシンガポールから香港に戻るところから始まる。彼の前には、66年から69年にかけて、四人の女たちが次々と現われては消えていく。
まずダンサーのルルが、彼を安ホテルの2046号室に導く。それは、『花様年華』でチャウとスー・リーチェンが密会した部屋と同じ番号であり、彼は隣の2047号室の住人となる。2046号室の住人は、恋人に刺されたルルからホステスのバイ、ホテルのオーナーの娘ジンウェンへと変わり、チャウはそんな隣人の女たちと関わりを持つことによって、スーへの想いを募らせていく。
ふたつの部屋を隔てる壁は、男女の交わりが生みだす振動がもろに伝わってくるほど薄い。しかし、“2046”と“2047”の間には(失われた時間という)越えることができない境界がある。だから彼は、隣人たちをモデルにした近未来小説を書き進めていくことで、それを越えようとする。
小説「2046」は、失われた愛が甦り、何も変わらない場所<2046>をめぐって展開する。そして、日本に帰ってしまった恋人を忘れられないジンウェンに触発された続編「2047」では、チャウの分身となった彼女の恋人タクが、アンドロイドのジンウェンに恋をしてしまう。
『欲望の翼』のルルが再び登場したり、チャウとジンウェンの関係が『花様年華』の彼とスーをなぞるなど、この映画では、60年代を背景にした前の二作品の断片が取り込まれ、あるいは反復され、ひとつの世界として再構築されていく。その二作品に思い入れのある筆者などは、それだけでも十分に酔える。
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