2046 (レビュー02)
2046


2004年/香港/カラー・モノクロ/130分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:「STUDIO VOICE」)

同じ心の傷を抱えた者同士の
儚く切ない恋愛映画

 ウォン・カーウァイの新作『2046』は、主人公チャウが『花様年華』の物語を引き継ぐようにシンガポールから香港に戻るところから始まる。彼の前には、66年から69年にかけて、四人の女たちが次々と現われては消えていく。

 まずダンサーのルルが、彼を安ホテルの2046号室に導く。それは、『花様年華』でチャウとスー・リーチェンが密会した部屋と同じ番号であり、彼は隣の2047号室の住人となる。2046号室の住人は、恋人に刺されたルルからホステスのバイ、ホテルのオーナーの娘ジンウェンへと変わり、チャウはそんな隣人の女たちと関わりを持つことによって、スーへの想いを募らせていく。

 ふたつの部屋を隔てる壁は、男女の交わりが生みだす振動がもろに伝わってくるほど薄い。しかし、“2046”と“2047”の間には(失われた時間という)越えることができない境界がある。だから彼は、隣人たちをモデルにした近未来小説を書き進めていくことで、それを越えようとする。

 小説「2046」は、失われた愛が甦り、何も変わらない場所<2046>をめぐって展開する。そして、日本に帰ってしまった恋人を忘れられないジンウェンに触発された続編「2047」では、チャウの分身となった彼女の恋人タクが、アンドロイドのジンウェンに恋をしてしまう。

 『欲望の翼』のルルが再び登場したり、チャウとジンウェンの関係が『花様年華』の彼とスーをなぞるなど、この映画では、60年代を背景にした前の二作品の断片が取り込まれ、あるいは反復され、ひとつの世界として再構築されていく。その二作品に思い入れのある筆者などは、それだけでも十分に酔える。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   ウォン・カーウァイ
Wong Kar Wai
撮影 クリストファー・ドイル、クワン・プンリョン、ライ・イウファイ
Christopher Doyle, Kwan Pung-Leung
美術/編集 ウィリアム・チョン
William Chang
音楽 ペール・ラーベン、梅林茂
Shigeru Umebayashi
 
◆キャスト◆
 
チャウ・モウワン   トニー・レオン
Tony Leung
タク 木村拓哉
Takuya Kimura
スー・リーチェン コン・リー
Li Gong
ワン・ジンウェン/wjw1967 フェイ・ウォン
Faye Wong
バイ・リン チャン・ツィイー
Ziyi Zhang
ルル/ミミ カリーナ・ラウ
Carina Lau
cc1966 チャン・チェン
Chen Chang
slz1960 マギー・チャン
Maggie Cheung
-
(配給:ブエナビスタ インターナショナル ジャパン)
 

 しかしこの映画は終盤で、第四の女の登場を境にして、ドラマ全体が鮮やかに再々構築され、三部作完結篇という位置づけとは異質な魅力を放ちだす。

 その第四の女、スー・リーチェンと同じ名前を持つ女ギャンブラーは、2046号室の住人ではない。小説「2047」のなかで、「一緒に行こう」と誘うタクに対して沈黙するアンドロイドが、シンガポールで彼女から同じように拒絶されたことを、チャウに思い出させるのだ。そして、チャウと彼女の関係が徐々に明らかになることによって、彼と他の三人の女たちとの関係も塗り替えられる。

 かつてルルはチャウに、忘れられない男がいることを告白し、そのことを忘れて自堕落な生活をするようになったが、チャウ自身も女ギャンブラーに同じことをしていた。バイはチャウに、10ドルで彼女の時間を売っていたはずだったが、本気になってしまう。チャウも、金だけの取引から女ギャンブラーに本気になっていいった。そして、チャウの分身タクは、アンドロイドのなかにスーを求めているが、かつてチャウは、女ギャンブラーのなかに彼のスーを求めていた。

 女ギャンブラーに拒絶され、香港に戻ったチャウは、2046と2047の境界に呪縛されることで、シンガポールの記憶の断片をたぐりよせ、境界を越える幻想に溺れる。しかし、アンドロイドの沈黙から女ギャンブラーそのものの記憶が甦り、彼女の拒絶に込められた感情を見極めることによって覚醒する。

 これは、同じ心の傷を抱えたチャウともうひとりのスー・リーチェンとの儚く切ない恋愛映画でもあるのだ。


(upload:2013/05/07)
 
《関連リンク》
『ブエノスアイレス』 レビュー ■
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