オーレン・ムーヴァーマン監督の『メッセンジャー』は2009年製作だが、なぜすぐに公開されなかったのか不思議に思うほど素晴らしい作品だ。イラク戦争については様々な視点から映像化されているが、その盲点を突いているといってもいいだろう。
この映画に描き出されるのは、戦死者の遺族に訃報を伝える任務を負うメッセンジャーの世界だ。
物語は、イラクで負傷して帰国したウイル軍曹が、上官のトニー大尉とともにこの新たな任務に就くところから始まる。告知は戦死者の身元確認から24時間と決められているため、彼らは常に態勢を整え、よどみなく遂行しなければならない。そんなドラマで最初に際立つのは、任務の過酷さだ。
ふたりが訪ねる遺族は心の準備などできているはずもない。彼らは取り乱した遺族から、疫病神のように蔑まれ、罵られ、唾を吐きかけられ、手を上げられることもあるが、おそらくそれらは想定の範囲内なのだろう。家族が複雑な事情を抱えていれば、必ず最近親者に伝えるという決まりが、異様な緊張や重圧を生み出すこともある。
たとえば、戦死者の母親を訪ねたところ、兵士の恋人が留守番をしていて、すぐに戻るという母親を待つ場合だ。恋人は妊娠していて、些細な事情で入籍が先延ばしになっているだけで、妻同然ではあるが、それでも決まりで伝えるわけにはいかない。
あるいは、戦死者の妻を訪ねたところ、当人と彼女の父親が現われ、その場で父親が初めて娘が結婚していたことを知る場合だ。いずれの場合も、不安、絶望、悲しみ、怒りなどの諸々の感情が交錯し、短い時間に凝縮されることになる。
しかしもちろんこの映画は、単に告知の現場を並べているだけではない。決まりを厳守するトニーと遺族に共感を示すウイルの間には軋轢が生じる。ウイルは夫を亡くしたある女性に特別な感情を抱き、彼女を頻繁に見舞うようになる。
ここで重要なのは、強靭な精神の持ち主でも参ってしまうような任務を、考え方の違いはあれふたりが投げ出さないということだ。それは、やがて明らかになるように、彼ら自身もそれぞれに深い心の傷を抱えているからだ。
この作品は、イラク戦争についての映画として独自の視点が際立っているが、それだけではなくバディ映画や恋愛映画としても異彩を放っている。 |