[ストーリー] ヘレン(インゲボルガ・ダプコウナイテ)は父親(デヴィッド・ワーナー)とふたりの子供とともにロンドンに住んでいる。夫のジョン(ピーター・ミュラン)は、国連のスタッフとしてボスニア難民救援のためクロアチアに行ったまま、家族の元にもう長い間帰っていなかった。週末はヘレンの誕生日だが、約束の日にジョンは戻れそうにない。すれ違いが続く関係に、ヘレンは孤独感をかみ締めて生きるしかなかった。
ある朝、息子のテリーを学校へ送った帰り、彼女は車にはねられ帰らぬ人となってしまう。一方ヘレンとの電話で激しく言い争ったことを深く後悔したジョンは、何も知らぬまま家族の元へ帰ろうと、戦火で荒れ果てた大地をくぐり抜けようと決心する――。[プレスより]
ポーランドで映画を学んだイギリスの新鋭エミリー・ヤング監督の『キス・オブ・ライフ』では、生と死の狭間の世界が、独自の世界観と表現で描きだされる。
主婦のヘレンは、父親と二人の子供たちとロンドンに暮らしている。夫のジョンは、国連のスタッフとして難民救済のためにクロアチアに滞在し、なかなか戻ってこない。夫からの電話で、ヘレンの誕生日に彼が戻らないことを知った彼女は、ひどく落胆し、口論となる。電話の後で後悔の念に駆られたジョンは、危険を押して国境に向かう。その頃、ヘレンは車にはねられ、命を奪われてしまう。しかし彼女は地上にとどまり、夫とのわだかまりを解き、家族に別れを告げようとする。
この映画でまず注目したいのは、生と死の間に明確な境界が引かれないことだ。死んだヘレン、残された家族、8ミリに刻まれた家族の思い出、彼らの夢や幻想など、すべては同じ次元で描かれる。ヘレンが死亡した時点から、彼女だけが特別な存在になるのではなく、家族や彼らの家そのものが、生と死の狭間に置かれ、限られた時間のなかで、家族の想いが交錯し、死が受け入れられていくのだ。
そんなドラマのなかでも特に印象に残るのは、ヘレンとジョンのコントラストだ。ロンドンの日常と戦火で荒廃した土地では、生と死の位相に大きな違いがある。二人が存在する世界には隔たりがあるが、ヘレンがはねられるときに、ジョンを乗せた車も人をはねそうになり、ジョンが息子の幻影を見るときに、ヘレンも反応するというように、彼らはシンクロニシティ(共時性)で繋がっている。
この映画は、生から死に向かうヘレンと旅のなかで死から生へと向かうジョンの想いをより合わせることによって、家族の死と再生を描く神話的な物語になっているのだ。 |