イノセント・ガーデン
Stoker


2012年/アメリカ/カラー/99分/シネマスコープ/ドルビー
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(初出:「映画.com」2013年5月22日更新、若干の加筆)

 

 

宿命と意志がきわどくせめぎ合う
パク・チャヌクの揺るぎない世界

 

 パク・チャヌク監督のハリウッド・デビュー作『イノセント・ガーデン』のヒロインは、研ぎ澄まされた感覚を持つ少女インディア・ストーカー。彼女が18歳になったその日、謎めいた鍵が届き、ただ一人だけ心を開いていた最愛の父が急死する。ともに残された美しい母エヴィ(イヴリン)とはなにひとつ分かり合えない。そして葬儀の日、行方不明だった叔父チャーリーが突然現れ、不可思議な出来事が次々に起こりだす。

 『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』という“復讐三部作”や『渇き』を撮ったパク・チャヌクであれば、ハリウッドという不慣れな環境でも、自身の脚本ではないとしても健闘するだろうとは思っていた。

 だが、それにしても、細部まで徹底的にこだわり抜いた揺るぎない世界を作り上げているのには驚かされた。ただ視覚に訴えるのではなく、触感まで生々しく伝わってくるような映像と音響の効果が際立つ。もちろんパク監督の右腕ともいうべきチョン・ジョンフンが撮影監督を務めていることは大きいが、決してそれだけではない。

 パク監督の作品では、独自の美学に貫かれた造形や暴力描写が際立つが、“過去”も同様に重要な位置を占めている。主人公が向き合う過去には冷酷な罠や秘密が隠され、そんな過去と現在のねじれが主人公の人生を大きく変えていく。この新作も例外ではない。


◆スタッフ◆
 
監督   パク・チャヌク
Park Chan-wook
脚本 ウェントワース・ミラー
Wentworth Miller
撮影 チョン・ジョンフン
Chung Chung-hoon
編集 ニコラス・デ・トス
Nicolas de Toth
音楽 クリント・マンセル
Clint Mansell
 
◆キャスト◆
 
インディア・ストーカー   ミア・ワシコウスカ
Mia Wasikowska
チャールズ・ストーカー マシュー・グード
Matthew Goode
リチャード・ストーカー ダーモット・マローニー
Dermot Mulroney
ジン大叔母 ジャッキー・ウィーヴァー
Jacki Weaver
イヴリン・ストーカー ニコール・キッドマン
Nicole Kidman
マクガーリック夫人 フィリス・サマーヴィル
Phyllis Somerville
-
(配給:20世紀フォックス映画)
 

 映画のプロローグで印象に残るのは、「花は自分の色を選べない」という言葉だ。18歳の誕生日を迎えるヒロインはまだ自分の色を知らないが、最初の誕生日からその答えに触れていたともいえる。彼女は毎年贈られるサドル・シューズを履いている。そして、18歳の誕生日には、クロコダイルのハイヒールが用意されている(この誕生日の贈り物はパク監督のアイディアだという)。

 ヒロインを暗黙のうちに呪縛している靴は宿命を象徴している。だが、これは、宿命を官能的に描いただけの作品ではない。彼女は靴の贈り主が期待しているような“友達”にはならないだろう。亡き父親に手ほどきを受けた狩猟の生々しい記憶は、彼女がどこかですでに覚醒していたことを示唆している。

 映画のエピローグでは、プロローグに見られた花が別の色に染まる。ヒロインはただ色を受け入れるのではなく、選んでいるようにも見える。そんな宿命と意志がきわどくせめぎ合い(その入り組み方は、前作『渇き』を想起させるものがある)、目眩すらもよおすところにパク・チャヌクならではの魅力がある。


(upload:2013/07/05)
 
 
《関連リンク》
『もし、あなたなら〜6つの視線』 レビュー ■
『オールド・ボーイ』 レビュー ■
『親切なクムジャさん』 レビュー ■
『サイボーグでも大丈夫』 レビュー ■
『渇き』 レビュー ■

 
 
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