『もし、あなたなら』は、韓国人権委員会が製作したオムニバス映画だ。国がスポンサーで、テーマが"人権"となれば、その枠組みが、監督たちの想像力や表現の足枷になり、重くて堅苦しい映画を予感させる。ところが、この映画はそんな先入観を見事に裏切り、多様なアプローチやスタイルで、それぞれに独自の視点を提示するドラマを紡ぎ出していく。
この手のオムニバス映画では、個々の短編に見るものがあっても、一本の作品としてのまとまりに欠けるものが少なくないが、この映画の場合は、間口が狭く見えるテーマを唯一の制約とし、それを監督たちが柔軟に解釈することによって、一貫したヴィジョンと彼らの個性を両立させているのだ。
映画を構成する6本の短編は、現代の韓国社会を多面的に描き出していく。就職を控えた女子高生のヒロインが、教室や企業の面接で"容姿"で差別され、笑い者にされる「彼女の重さ」からは、父権制、男性優位の社会が浮かび上がる。
ホラー仕立ての「顔の価値」では、葬儀場の駐車場で働く女性係員が、美人ゆえにドライバーの逆差別にあう。「神秘的な英語の国」では、教育熱心な親が子供に強要する英語の発音をよくするための手術が、モニターを通して生々しく実況中継される。
そして、なかでも特にひねりが効いていて印象に残るのが、チョン・ジェウン(『子猫をお願い』)の「その男、事情あり」とパク・チャヌク(『オールド・ボーイ』)の「N.E.P.A.L.
平和と愛は終わらない」だ。
監視社会を思わせる近未来のマンションを舞台にした前者では、ネットに未成年者に対する性犯罪が公表され、住人たちから無視されるA氏と、おねしょの罰としてパンツなしで外に放り出され、住人たちの笑い者になる少年の関係が、シュールな空気を醸し出す。
実話をもとにした後者では、精神障害者の韓国人と誤解され、6年以上も役所や病院をたらい回しにされるネパール人の女性出稼ぎ労働者の悲劇が、彼女の視点と関係者の証言を交えて描き出される。
どちらの短編も、一方には異分子に対する警戒心や不安があり、もう一方には他者に対する無知や無関心があり、皮肉なドラマのなかでそれらが救いがたく絡み合っているのだ。
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