筆者は、孤高の道を行くような監督としてのショーン・ペンの世界に強く惹かれているが、トッド・フィールドのこの劇映画監督デビュー作『イン・ザ・ベッドルーム』にはそれを髣髴させる魅力がある。
映画の舞台はニューイングランド、メイン州の沿岸部にある小さな町カムデン。開業医マット・ファウラーとその妻で合唱隊の教師をしているルースのもとに、建築家を目指す一人息子フランクが帰省し、大学院の学費を稼ぐためロブスター漁のバイトをしている。
彼は近所に住む年上の女性ナタリーと愛し合っている。幼い二人の息子を育てる彼女は、暴力的な夫リチャードと別居中だが、彼の方がどうしても離婚に応じようとしない。そして、ナタリーの家でフランクがリチャードと遭遇したとき、悲劇が起きる。
ショーン・ペンの監督作では、法に基づく罪と、罰と法という制度を越えた根源的な罪と罰のはざまで苦悩する人間の心理が鋭く掘り下げられる。たとえば、『クロッシング・ガード』で、少女の命を奪った男は懲役に服し、罪を償うが、娘を奪われた父親とのあいだでは裁きはまだ終わっていない。
この『イン・ザ・ベッドルーム』で、医師と妻の哀しみと苦痛は、息子を奪われたことだけで終わらない。息子を撃った男は保釈され、殺人よりも軽い故殺で裁かれようとしている。男は法に基づく罪だけを償えばよいと考えている。
『クロッシング・ガード』では、娘を奪われ、離婚に至った両親の感情的な軋轢が印象的に描かれていたが、この映画では、立ち直れない両親の心理がさらに冷徹に突き詰められていく。妻は心を固く閉ざし、夫は何とか理性を保とうとするが、息苦しい生活のなかで感情の抑制がきかなくなる。ふたりは責任をなすりつけあい、相手に対する怒りや憎しみを露にする。そんな対立の果てに和解が生まれ、夫はある決意をする。
しかし、ペンの世界との共通点はそれだけではない。ペンの作品では、『インディアン・ランナー』の冒頭にインディアンの狩猟のエピソードが盛り込まれていたり、最新作『プレッジ』の主人公が、少女の殺人犯を捕えることと彼の道楽である釣りにおける衝動を混同していくように、狩る者と狩られる者の関係を通して、法と野生の摂理や掟が対置される。 |