[Introduction] 歴史ある荘厳なホテルに銃声が響き渡り、美しい建物が破壊され、ついには燃え盛るという衝撃的な映像が世界中を駆け巡り、人々を震撼させた。2008年、太陽と色彩と生命力に満ちた国インドの経済とエンターテインメントの中心地、ムンバイでのことだ。イスラム武装勢力による同時多発テロが発生し、この街の象徴である五つ星のタージマハル・ホテルが、テロリストに占拠されたのだ。
だが、事件が終息したその後に、さらに驚く事実が明かされる。このテロ事件では500人以上の人質がホテルに閉じ込められたが、そのうちの多くの人が生還を果たした。そこには、プロフェッショナルとしての誇りをかけて、宿泊客を救おうとしたホテルマンたちの知られざる真実の物語が存在した。
この実話を、今の時代にこそ世に伝え、後世にも残さなければならないと決意したのが、バラエティ誌による「2018年に注目すべき映画監督10人」に選ばれた新進気鋭のオーストラリア人監督アンソニー・マラス。『ボーダーライン』の製作陣とタッグを組み、実際の生存者へのインタビューを重ね、当時の記録を徹底的にリサーチし、ついに映画化を実現した。(プレス参照)
[Story] インドの巨大都市ムンバイに、臨月の妻と幼い娘と暮らす青年アルジュンは、街の象徴でもある五つ星ホテルの従業員であることに誇りを感じていた。この日も、いつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、”楽園”は一瞬にして崩壊する。500人以上の宿泊客と従業員を、無慈悲な銃弾が襲う中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は、「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客らを救い道を選ぶ。一方、赤ん坊を部屋に取り残されたアメリカ人建築家デヴィッドは、ある命がけの決断をするのだが――。
ニューズウィーク日本版の筆者コラム「映画の境界線」で本作を取り上げています。その記事をお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。
● 「インドの9・11」ムンバイ同時多発テロを描く|『ホテル・ムンバイ』 |