ソニ
Soni


2018年/インド/ヒンディー語/カラー/97分
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(初出:)

 

 

インド映画の新鋭アイヴァン・アイルの長編デビュー作
細やかに描き出される女性同士のホモソーシャルな連帯関係

 

[Introduction] 『Lost & Found』(14)や『Quest for a Different Quest』(15)などの短篇で注目を集めたインド映画の新鋭アイヴァン・アイルの長編デビュー作。性差別がはびこる大都会デリーで、女性に対する犯罪と闘う短気な女性警官ソニと冷静な女性上司カルパナの葛藤と絆が描かれる。

 本作の企画の出発点は2014年にさかのぼる。2012年にデリーで発生した集団レイプ事件以後、デリーは女性にとって安全ではない街として注目を集め、この問題に対処する警察への関心が高まっていた。警察の活動に関する様々な記事を調べたアイルは、デリー警察は女性警官の比率が高いことを知り、この問題に対処する女性警官の立場や視点に関心を持ち、リサーチによって掘り下げ、ふたりのキャラクターを作り上げていった。

[以下、本作のレビューになります]

 本作は、主人公のソニが、私服で自転車に乗り、人気のない夜道を走っているところから始まる。そこに後方から自転車に乗った男が現れ、並走し、馴れ馴れしく声をかけてくる。角を曲がったところでソニは男に抗議するが、男の態度はますます横柄になる。彼女はそんな男に罵声を浴びせ、向かってくる男に殴りかかる。

 その瞬間、物陰から集団が現われ、倒した男を殴り続けるソニを止める。やがて一連の出来事が、デリー警察によるおとり捜査であることがわかる(アイル監督のインタビューによれば、まったくその通りではないが、同じようなおとり捜査が実際に行われているという)。捜査を指揮していた上司のカルパナは、ルールを無視して過剰防衛に走ったソニを注意する。その後も、熱意があってキレやすいソニと、部下を指導しようとする冷静なカルパナというのが、ふたりの関係の基本的な図式になっていく。

 本作では、警官としてのソニとカルパナだけでなく、彼女たちの私生活も丁寧に描き出される。

 ソニは離婚してひとりで暮らしているが、復縁を望む元夫ナヴィーンが頻繁に訪ねてきて、彼女はそのたびに不機嫌になる。その夫はひどく頼りなさげに見えるが、彼女を傷つけたことをどう償ってよいのかわからず、そんな態度になっているともいえる。

 カルパナは、同じ警察署で彼女よりも階級が上の夫サンディープと義母とともに暮らしている。部下思いのカルパナが夜勤も厭わないため、夫婦の間にはすれ違いもあり、義母は彼女が落ち着き、子供をつくることを望んでいる(アイル監督のインタビューによれば、このカルパナの立場には、教師をしていた彼自身の母親の立場が反映されているという)。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集   アイヴァン・アイル
Ivan Ayr
製作 キムシ・シン、カルティケヤ・ナラヤン・シン
Kimsi Singh, Kartikeya Narayan Singh
脚本 キスレイ・キスレイ
Kislay Kislay
撮影 デヴィッド・ボーレン
David Bolen
編集 グルヴィンダー・シン
Gurvinder Singh
音楽 ニコラス・ジェイコブソン=ラーソン、アンドレア・ペンソ
Nicholas Jacobson-Larson, Andrea Penso
 
◆キャスト◆
 
ソニ   ギーティカ・ヴィディヤ・オーリアン
Geetika Vidya Ohlyan
カルパナ サローニ・バトラ
Saloni Batra
ナヴィーン ヴィカス・シュクラ
Vikas Shukla
サンディープ モヒット・チョウハン
Mohit Chauhan
ニシュ シムラット・カウル
Simrat Kaur
デイジー ディンプル・カウル
Dimple Kaur
-
(配給:Netflix)
 

 アイル監督は、そんなふたりの公私にわたる日常を手持ちカメラの長回しでとらえ、臨場感を生み出す。ソニが住むアパートには、彼女のことを気にかける世話焼きの中年女性がいて、彼女が帰宅すると、決まって訪ねてきて、差し入れなどをする。アイルは、そんな隣人とソニの元夫の存在を、長回して巧みに対置させる。

 ソニが帰宅すると、いつものように隣人が訪ねてくる。その隣人が、不用心だといって窓のカーテンを閉めようとすると、窓からソニの元夫がやって来るのが見える。隣人が彼女にそのことを伝えると、彼女は一緒にいてほしいと頼むが、隣人は去り、入れ違いに元夫が現われ、ソニと彼のやりとりが始まる。隣人に対するソニの態度は素っ気ないが、それでも彼女はリラックスしている。だが、元夫とふたりになると落ち着きをなくし、空気が張り詰める。さり気ない場面ではあるが、ソニの気持ちや空気の変化が見事に映し出されている。

 冒頭でカルパナから注意を受けたソニだったが、それから間もなく、検問中に再びトラブルを起こす。泥酔して車を運転し、車から降りようとしないばかりか、権力を笠に着て女性であるソニに馴れ馴れしい態度をとる海軍の将官に対して再び彼女がキレ、「傲慢なブタめ」と罵って飛びかかってしまう。このトラブルによってカルパナも責任を問われ、ソニは緊急通報センターに異動させられる。

 だがそれでもカルパナは、ソニを現場に復帰させようと夫を説得する。それは単純に部下を守りたいからだけではない。そこには伏線がある。少し前に、ある夫婦と彼らの地主が警察著に押しかけ、騒ぎ出す出来事があった。夫婦の妻は、家賃の値上げをめぐって、夫が外出中に訪ねてきた地主に体を要求され、襲われそうになったと主張し、服の裂けた部分を見せる。その対応にあたったソニは、三者の言い分を聞き、夫婦の主張に疑問を抱き、和解するように指示する。

 別室で騒ぎを耳にしていたカルパナは、ソニに事情を問いただし、妻の芝居と判断したソニを叱責し、妻に正式な訴えを提出させるよう指示する。その結果、地主は拘束される。だがソニが異動になった後で、ソニの判断が正しかったことが明らかになり、カルパナが地主を釈放するよう指示することになる。

 厳密にいえば、このエピソードには、さらに細かな伏線もある。カルパナは女性に対する警察の対応に常に細心の注意を払うように心がけている。だから、服が裂けて、地主に襲われたと主張する貧しく弱い立場にある妻の主張を受け入れてしまう。だが、世の中には注目される女性問題を、意識的に、あるいは無意識に利用しようとする人間もいる。ソニは決してキレやすい性格なのではなく、状況を冷静に見ていて、キレるときにはそれなりの理由がある。

 本作の素晴らしいところは、上司であるカルパナがソニを守り、指導しようとする物語に見えながら、カルパナもソニから影響を受けているところだ。本作の後半で、現場に復帰したソニは、またもトラブルを起こすことになるが、同じことが繰り返されているのではなく、カルパナは明らかに変化している。

 本作を予備知識なく観た人は、監督が女性だと思うはずだ。アイル監督は、それほど細やかに、確かな洞察で女性同士のホモソーシャルな連帯関係を描き出している。

 

(upload:2021/10/23)
 
 
《関連リンク》
Soni Director Ivan Ayr On Getting Into The Minds Of Complex Female Characters And Why The Film Is Deeply Personal
by Gayle Sequeira | Film Companion October 28, 2018
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