ギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の『籠の中の乙女』(09)につづく2011年作品です。
救命士、看護師、コーチと体操選手の4人で構成される“アルプス”という組織は、家族を亡くしたばかりの遺族の喪失の哀しみを癒すために、故人になりきるサービスを提供しています。しかし、看護師がこのサービスを通して培われる関係に深入りするようになり、組織の結束が乱れていきます。
そんなドラマには、『籠の中の乙女』の世界観、視点が引き継がれています。前作では、父親が家族という集団を束ねる規律を体現していました。この映画では、体操選手に対してコーチが、組織全体に対してモンブランを自称するリーダー格の救命士が規律を体現しています。
看護師は父親と二人暮らしで、父親の面倒をよく見ていますが、ダンス教室で父親がある女性と親しくしていることに複雑な感情を抱いています。そんな彼女は、娘を交通事故で亡くした両親のために娘を演じ、妻を亡くした夫のために妻を演じる(セックスもする)うちに、現実の家族と擬似的な家族の境界が揺らいでいきます。しかも規律を無視し、リーダーへの報告を怠り、独断で行動するようになります。
台詞の棒読みや奇妙なボディランゲージ、家族というものの不安定で曖昧な関係性、看護師の迷走からランティモスの独自の世界と視点が浮かび上がってきます。
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