ところが、この『Tirtha』では、インド音楽もバッ クグラウンドに含むギタリストのPrasanna、タブラ奏者のNitin Mittaとコラボレーションを展開している。特に最近の『Historicity』(09)や『Solo』(10)と比較してみると、よけいに意外な印象を与えるのではないだろうか。
しかしこのコラボレーションにはそれなりの経緯がある。この変則的なトリオは、もともとインド独立60周年を記念する企画のひとつとして結成された。レ コーディングも最近というわけではない。このアルバムのレコーディングは2008年8月で、2008年11月と2009年3月にレコーディングされた 『Historicity』や2010年5月の『Solo』よりも古い。
だから、その順番で聴いてみるとしっくりくる。非常に完成度の高い『Historicity』のあとに位置づけると、なにかアプローチが半端に感じられるが、実はその手前の作品なのだ。
アイヤーは、グローバリゼーションの時代には、こうしたコラボレーションが、ジャンルや文化の壁を壊すことではなく、より自然なものになっているというよ うなことをどこかで語っていた。しかし少なくともこのアルバムでは、Fareed Haque+The Flat Earth Ensembleの『Flat Planet』(09)ほどには、そんなヴィジョンが明確になっていない。
とはいうものの、試みとしてはやはり非常に面白い。アイヤーが意識していたのは、ランディ・ウェストンのアフリカン・リズム・トリオやコルトレーンだというが、それは確かにサウンドから感じられる。特にコルトレーンについては、メンバーがみな意識しているように思える。そして、このようにアイヤーが積極的にインド音楽の要素を取り入れるようになると、マハンサッパやアバシとのコラボレーションがさらに深く、密接なものになりそうで、期待が膨らむ。 |