Flat Planet / Fareed Haque + The Flat Earth Ensemble
Flat Planet / Fareed Haque + The Flat Earth Ensemble (2009)


 
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(初出:web-magazine「e-days」2009年4月12日更新、若干の加筆)

 

 

“フラット化する世界”を想起させる
21世紀のワールド・フュージョン

 

 『Flat Planet』は、卓越したテクニックとジャンルを越えたユニークな感性で異彩を放つギタリスト、ファリード・ハークが作った新ユニットのファースト・アルバムだ。

 これまでのファリード・ハーク・グループのサウンドについては、超絶技巧が先に立ったり、かつてのフュージョンが脳裏をよぎるようなギミックが少し気になったりしていた。この新ユニットのサウンドは、曲の構成がより緻密になり、アンサンブルやインプロヴィゼーションへのこだわりに、ジャズの重みを感じる。

 楽器の編成にも大きな違いがある。タブラ、ドーラク、カンジーラ、シタール、インド・ヴァイオリンなどインド音楽の楽器が大幅に補強され、ワールド・ミュージックとしても独自のグルーブを生み出している。

 さらに、“フラット・プラネット”というアルバム・タイトルと、“フラット・アース・アンサンブル”というユニット名にも非常に興味をそそられる。ファリード・ハークは、トーマス・フリードマンの『フラット化する世界[増補改訂版]』をどこかで意識していたのではないだろうか。

 『フラット化する世界』は、コロンブスの航海のエピソードから始まる。スペインに戻ったコロンブスは国王と女王に地球は丸いと報告した。これに対して、アメリカからインドのバンガロールを訪れた著者トーマス・フリードマンは、地球は平らだという認識を持った。


◆Jacket◆
flat planet
 
◆Track Listing◆
 
Disc 01
01. - Big Bhangra
02. The Chant
03. Uneven Mantra
04. Blu Hindoo
05. Bengali Bud
06. Fur Peace
07. The Hanger
08. 32 Taxis
09. The Four Corners Suite-North
10. The Four Corners Suite-South
11. The Four Corners Suite-West
 
Disc 02
01.   The Four Corners Suite-East
02. Kala's Ragas
 
◆Personnel◆
 
Fareed Haque - jazz guitar, classical guitar, Hammond B3 organ, guistar, 6- and 12-string double-neck guitar, flutes, bells, percussion, silly vocals, producer; David Hartsman - alto sax, flute; Willerm Delisfort - keyboards, piano; Alex Austin and John Paul - bass; Subrata Bhattacharya - tabla; Jim Feist - tabla, vocals; Salar Nader - naal, tabla, dholak, kanjira; Indrajit Banerjee - sitar; Ganesh Kumar - kanjira, vocals; Elihu Scott Haque - djembe, voice; Rob Clearfield - piano, harmonica, electric piano, Hammond B3 organ; Corey Healey, Jason Smart - drums; Kalyan Pathak - sticked percussion on track 2; Kala Ramnath - Hindustani violin on track 2

(Owl Studios)

 新しい通信テクノロジーの出現によって、地球上のあらゆる場所にいる人間との共同作業が可能になり、アメリカとインドはアウトソーシング産業によって密接に結びつくようになった。アメリカの所得税申告が次々とインドで処理される。通信社はニュース速報を、投資会社は分析業務をインドにアウトソーシングする。アメリカのビジネスマンは、インドの遠隔アシスタントを雇い、アメリカの児童や親は、インドのオンライン家庭教師を雇う。

 『Flat Planet』には、ジャズ、ファンク、インドやパキスタンなどの音楽の要素があるが、それらを単純に結びつけているわけではない。たとえば、ボリウッドのサウンドトラックが、イギリスやアメリカのインド人やパキスタン人のコミュニティでバングラへと発展し、インドやその周辺のアジアのコミュニティでもバングラのムーブメントが広がる。ファリード・ハークは、そんな音楽のダイナミズムを視野に入れ、ダンサブルでスピリチュアルなサウンドを生み出している。

 さらに、アルバムに収められた<The Four Corners Suite>も、“フラット”というキーワードと結びつく。これは、4方位をタイトルにした組曲だが、アルバムに収められているのは、<North><South><West>の3曲で、<East>をダウンロードすることによって地図が完成するようになっている。別の曲ではなく、わざわざこの組曲のなかの1曲をボーナス・トラックにしているのは、“フラット”な世界を強調するためのように思える。

《参照/引用文献》
『フラット化する世界[増補改訂版]』トーマス・フリードマン●
伏見威審訳(日本経済新聞社、2008年)

(upload:2010/08/16)
 
 
《関連リンク》
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