イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密:OST
/ アレクサンドル・デスプラ

The Imitation Game: Original Soundtrack / Alexandre Desplat (2014)


 
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(初出:)

 

 

暗号解読のスリルと天才数学者の複雑な内面を表現する
全体にどこか憂いを帯びた響きが彼の運命を象徴している

 

 「コンピュータの父」や「情報時代の先駆者」として評価される天才数学者アラン・チューリングの実話を映画化した『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のオリジナル・サウンドトラックです。監督はノルウェー出身のモルテン・ティルドゥム。ベネディクト・カンバーバッチがチューリングを熱演しています。

[ストーリー] 1939年、英国。世界一の数学者を自負するアラン・チューリングは、ドイツ軍の暗号エニグマを解読するという政府の極秘任務に就く。チェスの英国チャンピオンなど各分野の精鋭によるチームが結成されるが、傲慢かつ不器用なチューリングは彼らとの協力を拒み、一人で電子操作の解読マシンを作り始める。

 そんな中、新たにチームに加わったクロスワードパズルの天才ジョーンがチューリングの理解者となり、やがてその目的は人の命を救うことに変わっていく。いつしか一丸となったチームは予想もしなかったきっかけでエニグマを解くが、解読したことを敵に知られれば設定は変えられてしまう。MI6と手を組んで、チューリングはさらに危険な秘密の作戦に身を投じるのだが――。[プレスより]

 サウンドトラックを手がけているのは、「質」・「量」ともに映画音楽界の頂点にあるといっても過言ではないフランス人の作曲家アレクサンドル・デスプラです。彼は2014年製作の映画だけでも、ジョージ・クルーニー監督の『ミケランジェロ・プロジェクト』、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』、ギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』、アンジェリーナ・ジョリー監督の『アンブロークン(原題)/Unbroken』、そしてこの作品と、5つのサウンドトラックを手がけています。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   The Imitation Game (2:37)
02. Enigma (2:51)
03. Alan (2:57)
04. U-Boats (2:13)
05. Carrots and Peas (2:19)
06. Mission (1:37)
07. Crosswords (2:53)
08. Night Research (1:40)
09. Joan (1:46)
10. Alone With Numbers (2:58)
11. The Machine Christopher (1:57)
12. Running (3:01)
13. The Headmaster (2:28)
14. Decrypting (2:01)
15. A Different Equation (2:55)
16. Becoming a Spy (4:09)
17. The Apple (2:21)
18. Farewell to Christopher (2:41)
19. End of War (2:08)
20. Because of You (1:36)
21. Alan Turing’s Legacy (1:57)

◆Personnel◆

Music composed and conducted by Alexandre Desplat. Performed by The London Symphony Orchestra. Orchestrations by Jean-Pascal Beintus, Sylvain Morizet and Nicolas Charron. Recorded and mixed by Peter Cobbin. Edited by Kirsty Whalley. Album produced by Alexandre Desplat

(Sony Classical)
 

 『イミテーション・ゲーム』のサウンドトラックでまず注目したいのは、映画に描かれるドラマの複数の時間と音楽の関係です。ドラマは戦時下の暗号解読が中心になりますが、そこに主人公アラン・チューリングの少年時代のフラッシュバックが挿入されます。しかも正確にいえば、戦時下のドラマも現在進行形というわけではありません。物語は戦後の1951年のマンチェスターから始まります。チューリングの自宅が何者かに荒らされますが、地元警察の刑事はチューリングの態度を不審に思い、彼に対する取り調べを行ないます。そこでチューリングの過去が明らかにされていくという構成になっています。

 デスプラのスコアも、そうした三つの時間を意識した構成になっています。つまり、サントラも三つの時代のチューリングを表現しているということです。ただ、あくまで中心になるのは戦時下のドラマです。

 デスプラの魅力のひとつは、楽器の組み合わせを変えて、ひとつのモチーフからバリエーションを生み出し、複雑なエモーションを表現するところにありますが、このサントラでも、ピアノ、チェレスタ、ストリングス、フルートやオーボエ、グロッケンシュピールなどを駆使し、多様なテクスチャーを生み出しています。リズムも得意の軽快なワルツから、フィリップ・グラスを連想させるようなミニマル風、そして、緊張が漂うパーカッシブでアグレッシブな曲まで変化に富んでいます。そして、アラン・チューリングという人物の複雑な内面と運命を反映するように、全編にわたって音楽が常にどこか憂いを帯びているところが実に素晴らしいです。


(upload:2015/03/20)
 
 
《関連リンク》
モルテン・ティルドゥム
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