ニコール・キッドマン主演の最新作『奥さまは魔女』は、かつて一世を風靡したあのTVシリーズをそのまま映画化するのではなく、現実と虚構が錯綜するひねりを加えたラブ・ファンタジーだ。
キッドマン扮するイザベルは、演技経験もないのに、ひょんなことから"奥さまは魔女"の新シリーズのサマンサ役に大抜擢される。だが、実は彼女は、普通の生活に憧れて人間界にやって来た本物の魔女だった。女優となった彼女は、秘密を抱えたままダーリン役のジャックと恋に落ちていく。
この映画で筆者がまず注目したいのは、監督・脚本を手がけているのが、『恋人たちの予感』、『めぐり逢えたら』、『ユー・ガット・メール』といった作品で、メグ・ライアンをロマンティック・コメディの女王にしたノーラ・エフロンであることだ。振り返ってみると、ニコール・キッドマンとメグ・ライアンには浅からぬ因縁がある。
オーストラリア映画界で頭角を現したキッドマンは、トム・クルーズに注目され、彼と共演し、結婚することで、憧れのアメリカ映画界に進出した。だが、オーストラリアで高校を中退してまで演技に打ち込んできた彼女は、アメリカでは、クルーズ夫人というレッテルを貼られてしまったこともあり、スターではなく女優として認知される作品になかなか恵まれなかった。そして、そんな彼女にとって大きな転機となったのが、実話をもとにした『誘う女』だった。
この映画のヒロインは、有名になるために夫の存在が邪魔になると、高校生を色仕掛けでそそのかしてまで、夫を殺害しようとする。そんなヒロインの第一候補は、実はメグ・ライアンだった。しかし彼女はオファーを断り、それを知って自らヒロインに名乗りを上げたのがキッドマンだった。彼女は、ヒロインがテレビ文化の犠牲者でもあると考え、その複雑なキャラクターを表現したいと思った。そこで、ガス・ヴァン・サント監督に直接電話し、自分がいかにこの役に相応しいかを切々と語り、一時間以上かけて口説き落としたのだ。
『誘う女』はキッドマンに、ゴールデン・グローブ賞の主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)をもたらした。そして、その後の彼女の出演作品では、スタッフやテーマ、キャラクターなどに、非ハリウッド、非アメリカ的な要素が目立つようになる。
ジェーン・カンピオン監督の『ある貴婦人の肖像』やバズ・ラーマン監督の異色のミュージカル『ムーラン・ルージュ』は、キッドマンとオーストラリア映画界とのパイプから生まれた。『アザーズ』は、スペイン映画界の新鋭アレハンドロ・アメナーバルが監督したゴシック・ホラーであり、『ドッグヴィル』は、アメリカを訪れたことがないデンマークのラース・フォン・トリアー監督が、床に白線を引いただけのセットのなかに彼の内なるアメリカを描き出す野心作だった。
また、『バースデイ・ガール』の英語が話せないロシア人花嫁、アカデミー賞の主演女優賞に輝いた『めぐりあう時間たち』のヴァージニア・ウルフ、『ザ・インタープリター』のアフリカで生まれ育った国連通訳など、キッドマンがたびたび外国人を演じるのも偶然ではないだろう。彼女は、アメリカに対して様々な意味でアウトサイダー的なスタンスをとることによって、女優として不動の地位を築き上げてきたのだ。 |