ザ・インタープリター
The Interpreter  The Interpreter
(2005) on IMDb


2005年/アメリカ/カラー/129分/シネスコ/ドルビーSR・SRD・SDDS・DTS

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(書き下ろし)

 

 

男と女、職務と感情、国連とアメリカ
それらの狭間に描き出される“復讐”

 

 この映画に描かれる陰謀については、いささか辻褄の合わないところもあるように思えるが、主人公の女と男の非常に象徴的なドラマが、それを補っている。女は、アフリカの(架空の国)マトボで生まれ育ち、5年前から国連で通訳として働いているシルヴィア。男は、妻を亡くしたばかりでありながらシークレット・サーヴィスの仕事に復帰したケラー。

 そんなふたりのドラマで注目しなければならないのは、それぞれの職務と個人的な感情の距離だ。脚本は、その距離や変化を巧みにとらえ、"復讐"というものを強調していく。

 シルヴィアは、会議の終了後に偶然、間もなく国連で演説することになっているマトボのズワーニ大統領を亡き者にしようとする陰謀の密談を耳にしてしまう。その暗殺計画に関する捜査を開始したケラーは、シルヴィアに疑惑の目を向け、調査の結果、彼女の両親と妹が、ズワーニの圧政の犠牲になったことが明らかになる。そしてふたりは激しく対立する。

 この対立は、最初はそれぞれの職務ゆえの対立に見える。しかし、ドラマが展開し、彼らが背負う過去が見えてくるに従って、個人的な体験と感情が深く関わっていることがわかってくる。ケラーの妻は、自分から夫のもとを去ったのだが、彼の目から見れば、彼女を奪った男に殺されたも同然だ。男が生きていれば、ケラーは間違いなく復讐していた。

 そんな心の傷が癒えないまま仕事に復帰した彼は、職務ゆえに疑惑を晴らそうとしているだけではなく、自分をシルヴィアに重ね、彼女の立場であれば復讐は当然のことだと考えている。一方、シルヴィアは、過去の悲しみを見つめ、彼女がそのなかで育ったクー族の復讐を否定する世界観を受け入れ、国連に活路を見出そうとしてきた。

 個人的な感情から復讐を肯定するケラーは、まさにいまのアメリカだ。彼は、国連という境界を無視し、シルヴィアも自分と同じだとはなから決めつける。そんな図式があるからこそ、アメリカの看板を背負ったケラーが、国連にずけずけと踏み込もうとしたときに、警備員からここは国連だといって、足止めを食わされる皮肉が生きてくる。

 だが、ふたりの職務の背後で、それぞれに個人的な感情が作用しているということは、さらなる悲劇が起こって、立場が変わるということもあり得る。ケラーは、シルヴィアの警護にあたるうちに、彼女を理解し、アメリカから国連に近づいていく。一方、シルヴィアは、彼女にとって最も大切な人間たちを失う。その結果、彼らの立場は逆転する。

 そして、国連の中と外で起こることのコントラストが、その逆転を際立たせることになる。国連の外、すなわちアメリカでは、凄惨な爆破テロが起こる。これに対して、国連の中で起ころうとしていることには裏がある。そのコントラストは、ある意味でアメリカと国連の違いを物語っているともいえる。しかし、国連からアメリカへと変貌したシルヴィアは、その裏を表に、つまり国連をアメリカに変えてしまおうとするのだ。


◆スタッフ◆

監督   シドニー・ポラック
Sydney Pollack
脚本

チャールズ・ランドルフ、スコット・フランク、スティーヴン・ザイリアン
Charles Randolph, Scott Frank, Steven Zaillian

原作 マーティン・スティルマン、ブライアン・ウォード
Martin Stellman, Brian Ward
製作総指揮 シドニー・ポラック、アンソニー・ミンゲラ、G・マック・ブラウン
Sydney Pollack, Anthony Minghella, G. Mac Brown
撮影 ダリウス・コンジ
Darius Khondji
編集 ウィリアム・スタインカンプ
William Steinkamp
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
James Newton Howard

◆キャスト◆

シルヴィア・ブルーム   ニコール・キッドマン
Nicole Kidman
トビン・ケラー ショーン・ペン
Sean Penn
トッド・ウッズ キャサリン・キーナー
Catherine Keener
ラッド ジェスパー・クリステンセン
Jasper Christensen
フィリップ イヴァン・アタル
Yvan Attal
ズワーニ アール・キャメロン
Earl Cameron
クマン・クマン ジョージ・ハリス
George Harris
マーカス マイケル・ライト
Michael Wright
ケラーの上司 シドニー・ポラック
Sidney Pollack

(配給:UIP)
 


 この映画で、ショーン・ペンがケラーを演じているのは興味深い。彼が監督した『クロッシング・ガード』『プレッジ』、そして彼が主演した『ミスティック・リバー』や『21g』には、復讐や個人による裁きが描き出されていた。この映画のケラーもまた、復讐や裁きと向き合い、アメリカという呪縛から解き放たれていくのである。


(upload:2005/05/24)
 
 
《関連リンク》
ショーン・ペン 『プレッジ』 レビュー ■
ショーン・ペン 『クロッシング・ガード』 レビュー ■

 
 
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