園子温インタビュー02
Interview with Sion Sono


2012年9月 渋谷
希望の国/The Land of Hope――2012年/日本=イギリス=台湾/カラー/133分/ヴィスタ
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■20キロ圏内での体験とタイトル『希望の国』

――以前インタビューしたとき、伝統的な家族や伝統的な日本映画の流れを疑っているとおっしゃっていて、実際に壊れた家族を描いたり家族の裏側を暴いてこられましたが、『希望の国』の家族像はこれまでと違いますね。

「テーマが原発だから、ほかを際立たせる必要はないんです。家族問題を抱えたところに原発が襲ってきたら、どっちがテーマかわかんない(笑)。だから伝統的っていうか、いわゆる日本的ないい家族にしたんです。僕の意識としては“伝統的な日本映画のなかの家族”を壊したい。日本映画は何十年か遅れていると思ってるんで。
絵画で言えば、海外ではどんどん進んだ画風で描かれてるのに、日本ではいつになっても赤富士を描いて「いい絵だ」って言ってるみたいな(笑)。そういうのを壊したくてずっとやってきましたけど、この映画は逆に日本人にちゃんと見てほしいと思ったんで、あえて赤富士を描いてみた感じです」

――資金調達で海外資本の協力を得たことについてはどう考えますか。

「言ってしまえば情けないかなと思いましたよ。いろいろ事情はおありなんでしょうけど、しょせん芸能、エンタメなのかなって残念さはありました。この作品が出来たことは突破口のひとつになれたと思いますけどね。今年、原発のドラマ映画を撮ったのが僕ひとりっていうのはよくないですよ。ほかの監督にも考えてほしい。
 向こうでは目の前で起こってる戦争を批判的に描いた『ハート・ロッカー』がアカデミー賞を獲るんですから、腐ってもハリウッドだなと。日本なら東宝が原発を扱った映画を撮って、それが日本アカデミー賞を獲ればいいんです。それぐらいやんない限り、日本映画はまだ閉塞状況と思いますね」


 


――最後に『希望の国』というタイトルに込めた意味を聞かせてください。

「今年の初日の出を20キロ圏内で迎えたんですけど、南相馬の海から昇る太陽が、見たこともないくらい真っ赤できれいだったんです。本当に感動して、深呼吸して放射能をたっぷり吸い込んで(笑)、ハッと『希望の国』でいい、と思ったんですよね。何の皮肉も意図もなく、文字通りの意味で。
  そのときに、言ってみれば陳腐なんだけど「愛さえあれば大丈夫」という台詞も決まりました。希望さえあれば、どんなにひどいありさまでもやっていける、という決意を実際にしましたし。最初はラストが違ったんです。飢えて痩せ細って死にかけた野良犬が仰向けになって虚空を眺めているところで終わるつもりでした。それは完全に希望がないですよね」

――それも撮ったんですか。

「撮りませんでした。迷いましたけど、いま伝えたいのはそれじゃないと思って。僕は映画は巨大な質問状だと思ってるんです。観客それぞれが考えて答を出す問題なのに、それじゃ偏った質問になってしまう。
 とにかく早く公開したいですね(取材は9月下旬)。いつもはあまり受けない取材もいっぱい受けてるのは、それで広がればいいなっていう思いが大きいんです。官邸前にも行って、ビラを撒いたりマイクを持ってしゃべらせてもらったりしました。「福島を食いものにしやがって」って思われそうで怖かったけど、そうも言ってられない。広げたいんですよ、この映画は」

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[ 取材:大場正明 構成:高岡洋詞 ]

(upload:2013/03/04)
 
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