『紀子の食卓』や『愛のむきだし』で快進撃を続ける園子温監督。新作の『ちゃんと伝える』は、これまで過激で挑発的な作品を量産してきた園監督が最も撮りそうにないタイプの作品だといえる。
愛知県の豊川に住み、タウン誌の編集部に勤める27歳の史郎は、倒れて病院に運ばれた父親がガンであることを知り、親子の関係を修復しようとする。高校教師でサッカー部の鬼コーチだった父親は家でも学校でも厳しく、親子の間には溝ができていた。しかし毎日病院を訪れるうちに、今度は史郎自身が悪性のガンと宣告される。そんな彼は、父親、そして結婚を考えていた恋人の陽子のことを思い、苦悩する。
『紀子の食卓』は、インターネットやレンタル家族という要素やアイデアを盛り込み、辛辣なユーモアを散りばめ、家族とは何かを鋭く掘り下げた傑作だった。筆者が園監督にインタビューしたとき、彼は家族についてこのように語っていた。
「日本では、伝統的な家族の在り方というものが、古くからあるように見せかけているけれども、本当はないと思うんですよ。それがあるのなら、いつから崩壊したのか逆に問いただしたい。そんな曖昧さのなかで、幸せな家族の在り方があると信じ込み、家族を形成していくことの危うさを表現したかった。僕は、伝統がないのに伝統的といわれるものがあるように見せかけている日本映画の流れも嫌いなんです。小津安二郎からの流れや、相米慎二的なるものが、一体何なのかということも疑わずにスタイルに取り入れ、自意識もなくカット割りをしたり、画を作っている。そういう日本映画的なものと日本的な家族は、似ていると思うし、その安定感をずっと疑っているところがあります」
『紀子の食卓』も『ちゃんと伝える』と同じように豊川を舞台にしているが、園監督は舞台についてはこう語っていた。
「実は豊川というのは僕の田舎の名前でもあり、そういう固有名詞によって自分を引き寄せて、すべてが同じではないですけど、自分史を語っているところがあるんでしょうね。家族を信じていないというのは、自分がまずそういう環境のなかで育ったというのが大きいと思う。僕は、家族がちょっとしたことで殺し合うような最近のニュースを見ると、なんでそんなに簡単に家族関係が崩壊してしまうのかよくわかる。ありもしない伝統的な家族を作ろうとして、一生懸命やった末に壊れるのだと思いますね」
そういう意味では、園監督自身が実父を亡くした経験が出発点になっている『ちゃんと伝える』は、これまでとは異なる次元から自分史を語る作品といってもよいだろう。
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