『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』などの強烈な描写で注目され、前作『ヒミズ』では原作の設定を変えて被災地でロケを行った園子温監督。新作『希望の国』は震災の数年後の「長島県」を舞台に、原発事故によって引き裂かれた家族を描く。深刻な内容にもかかわらず『希望の国』と名づけられた映画の背景に迫る!
■被災地で取材を重ね、セリフもそのまま
――原発問題を扱うとなると賛否やメッセージに関心が行きがちですけど、『希望の国』では登場人物それぞれの思いがドラマだけではなく風景を通して伝わってくる。その映画的な表現にとても心を動かされたんですが、最初からそういう構想があったんですか。
「最初から思ってました。極彩色で描く映画じゃないので、カメラもフィックスで、あまり人物にも寄らず、基本ワンシーン、ワンカットで、抑えて抑えて撮ろうと。最近の僕の映画がハードロックだとすれば、これはアコースティックギター1本みたいな感じですね。演技もいじりませんでした。いちばん重視したのは画面です。今回ほどカメラの背後にいて、風景の撮り方をカメラマンと話したことはないです」
――風景はどのように選んだんですか。
「取材のために20キロ圏内にこっそり入って、電気自転車で回ったんです。そこで見た風景をそのまま出したかったんですけど、20キロ圏内で撮りたいって言ったら断られたので、似たようなところを探すしかないと思って、気仙沼市にも協力してもらいました。もうどんどん復興してきれいになってきているんで、本当に狭い一角しか残っていないんですよ。ちょっとカメラを外すと普通の町なんで、その点ではウソも入っているんですけど(笑)」
――そうとう取材されたんですよね。対象はどういう基準で選びましたか。
「むしろ基準なく進めました。最初は役所を通じて避難された方を紹介してもらったりしたんですけど、ずっと役所の人がついてくるからあんまり本音を吐いてもらえなくて(笑)、途中から行き当たりばったりに変えたんです。街で会った人に声をかけたりしました。
テーマは放射能による不条理な家族離散、と漠然とは考えていたんですけど、報道でイヤというほど見せられてるものをドラマでやるならもう一本軸が必要だな……と考えてたとき、実際に20キロ圏の内外で庭が分離されてる家を見かけたんです。何だろうと思ってその家の方にお会いして訊いたら「自分の家の庭なのに圏内にされたから二度といけなくなった」って言われて、これをベースにしようと思いついたんです。何度もお邪魔して、3月11日の前日から一週間にその家で何が起きたか調べ上げたり、ほかの土地の同じようなケースを取材したりしました。だから映画の前半はほぼ事実そのままというか、セリフも実際に取材した人の言葉を使ってます。後半は少し想像も入ってますが、それ以外はある意味でドキュメンタリーじゃないかなと思います」 |