ザ・トランスポーター(エル・ニーニョ)
El Nino El Nino (2014) on IMDb


2014年/スペイン/カラー/136分/
line
(初出:)

 

 

海峡や国境が生み出す“境界”の距離や重さが
立場の異なる登場人物の人生や運命を変えていく

 

[ストーリー] エル・ニーニョは、英国の海外領土ジブラルタルと国境を接するラ・リネア・デラ・コンセプシオンでボートの修理工をしている若者だ。そんなニーニョに友だちのエル・コンピが金儲けの話を持ちかけ、彼をモロッコ移民の若者ハリルに会わせる。ハリルはふたりを、麻薬取引を仕切るおじラシッドのもとに案内し、彼らはモロッコから高速ボートで麻薬を運ぶ仕事を請け負う。

 ところが、本物の取引のおとりに使われたことを知ったニーニョとコンピは、ラシッドに頼らず、自分たちで取引を仕切りだす。ニーニョは、海峡をボートで往復するうちに、モロッコに住むハリルの姉アミナと恋に落ちる。しかし、危険な取引に手をだしたことから、彼らは窮地に陥る。

 一方、ベテラン刑事ヘススと相棒のエバは、ジブラルタル海峡をめぐる麻薬密売ルートを追い、英領ジブラルタルに住むエル・イングレスという男を標的として、2年にわたる内偵を進めてきた。そして、動かぬ証拠をつかめると踏んだ彼らは、大きな賭けに出るが、それは罠だった。ヘススは領海を監視するヘリのパイロットに左遷させられるが、密かに捜査をつづけ、やがてニーニョに目をつける。

 前作『プリズン211(第211号監房)』(09)で大きな成功を収めたダニエル・モンソン監督の長編第5作です。本国スペインでは大ヒットしたようです。

 モンソン監督は、異なるふたつの世界の境界に強い関心を持ち、そこから独自の世界を切り拓いていきます。『イレイザー』(06)では、SF小説という虚構と現実の境界が、『プリズン211』(09)では、刑務所における職員と囚人の境界が鍵を握っていました。この新作では、アフリカ大陸とヨーロッパを隔てるわずか16キロの海であるジブラルタル海峡や、英領ジブラルタルとラ・リネア・デラ・コンセプシオンを隔てる国境が“境界”となります。

 この映画では、エル・ニーニョやエル・コンピを主人公にした物語と、ヘススやエバを主人公にした物語が並行して描かれ、最後に絡み合うことになります。双方にとって、境界が生み出す距離や重みの変化はまったく対照的です。

 映画の導入部では、ラ・リネア・デラ・コンセプシオンに暮らすニーニョが、マリンジェットでモロッコまでひとっ走りし、その土産としてコンピにアフリカの石を渡します。彼にとってふたつの世界はそれほど近いものであるため、麻薬取引の深みに容易にはまっていきます。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ダニエル・モンソン
Daniel Monzon
脚本 ホルヘ・ゲリカエチェバァリア
Jorge Guerricaechevarria
撮影 カルレス・グシ
Carles Gusi
編集 クリスティナ・パストール
Cristina Pastor
音楽 ロケ・バニョス
Roque Banos
 
◆キャスト◆
 
ヘスス   ルイス・トサル
Luis Tosar
エル・ニーニョ ヘスス・カストロ
Jesus Castro
セルヒオ エドゥアルド・フェルナンデス
Eduard Fernandez
ビセンテ セルジ・ロペス
Serge Lopez
エバ バルバラ・レニー
Barbara Lennie
エル・イングレス イアン・マクシェーン
Ian McShane
ラシッド ムサ・マースクリ
Moussa Maaskri
エル・コンピ ヘスス・カロッサ
Jesus Carroza
アミナ マリアン・バチル
Mariam Bachir
-
(配給:)
 

  ニーニョとモロッコに住むアミナの関係にも、そんな距離や重さの違いがよく表れています。彼女は、ヨーロッパ人の養子になって、海峡を越える機会を何年もかけて待っています。ニーニョはそんなアミナをあっという間に海の向こうに連れて行くことができます。だから自由の幻想が膨らみますが、やがて境界の恐ろしさを思い知ることになります。

 一方、ヘススとエバが標的とするエル・イングレスは英領ジブラルタルに住んでいるために、なかなか自由に捜査ができず、それが罠にはめられる原因にもなります。空からの監視にも領海の制約があります。

 この新作では、モンソン監督が描き出す“境界の崩壊”に、『プリズン211』ほどのインパクトはありませんが、やはり非常に見応えのあるドラマになっています。


(upload:2015/06/25)
 
 
《関連リンク》
ダニエル・モンソン 『プリズン211(第211号監房)』 レビュー ■
ダニエル・モンソン 『イレイザー』 レビュー ■
アルベルト・ロドリゲス 『マーシュランド(英題)』 レビュー ■
アルベルト・ロドリゲス 『ユニット7/麻薬取締第七班』 レビュー ■
ナタリア・メタ 『ブエノスアイレスの殺人』 レビュー ■

 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp