[ストーリー] 刑務所の職員として働くことになったフアンは、着任の一日前に職場に赴き、看守に監房を案内してもらっていたが、運悪く天上からの落下物が頭部にあたり、朦朧となる。看守はそんな彼を無人の第211号監房で休ませようとする。ところがその直後、凶悪犯を収容する監房で暴動が発生し、慌てた看守はフアンを置き去りにして避難してしまう。
気を失ったフアンが意識を取り戻し、監房の外を見ると、そこは囚人たちに完全に占拠されていた。事態を理解した彼は、所持品をトイレに押し込み、囚人を装う。なんとか脱出したい彼は、暴動の首謀者マラマドレに取り入り、外部とコンタクトをとる機会をうかがう。外部では、SWATチームが突入のタイミングを見計らっている。さらに、フアンの身重の妻がニュースで暴動を知り、刑務所に向かうが――。
スペインのアカデミー賞といわれるゴヤ賞で15部門にノミネートされ、作品、監督、主演男優、助演女優など8部門で受賞したダニエル・モンソン監督の長編第4作です。単なる監獄もののサスペンス・アクションではなく、緻密に組み立てられた人間ドラマになっています。
SWATチームがすぐに突入しないのにはわけがあります。その刑務所のなかに、バスク地方の分離独立を求める組織ETA(バスク祖国と自由)の政治犯たちがいて、マラマドレたちは彼らを人質にとり、所内の環境改善を要求するからです。政治犯に危害が加えられることは、バスク州政府との対立の火種になりかねません。暴動の首謀者がなぜ政治犯の存在を知り、そのタイミングで暴動を起こしたのかも、ひとつのポイントになります。
緻密な構成は、脚本の力だけではなく、フランシスコ・ペレス・ガンドゥルの原作が土台になっているからでしょう。
ただし、それだけではこのような強烈なダイナミズムやインパクトが生まれることはなかったはずです。そこで、どうしても見逃すわけにはいかないのが、モンソン監督のこだわりです。彼は、異なるふたつの世界の境界に強い関心を持ち、そこから独自の世界を切り拓いていきます。
たとえば、前作『イレイザー/The Kovak Box』では、虚構と現実の境界がポイントになります。主人公のSF作家デヴィッドは、トラブルに巻き込まれていくなかで、かつて自分が書いた小説、その虚構の世界が、現実のものになっていることに気づきます。彼は、ある科学者が仕掛けた罠に落ちていきます。その恐ろしい現実に対処するために、彼は銃をとらざるをえなくなります。そこでは境界の崩壊が起こり、おそらく彼は作家としてこれまでのように虚構を扱うことはできなくなるでしょう。 |