プリズン211(第211号監房)
Celda 211 / Cell 211 Cell 211 (2009) on IMDb


2009年/スペイン=フランス/カラー/110分/
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(初出:)

 

 

私たちの関係を支える境界が崩壊していくとき
個人の深い感情、組織や政治の醜さが露になる

 

[ストーリー] 刑務所の職員として働くことになったフアンは、着任の一日前に職場に赴き、看守に監房を案内してもらっていたが、運悪く天上からの落下物が頭部にあたり、朦朧となる。看守はそんな彼を無人の第211号監房で休ませようとする。ところがその直後、凶悪犯を収容する監房で暴動が発生し、慌てた看守はフアンを置き去りにして避難してしまう。

 気を失ったフアンが意識を取り戻し、監房の外を見ると、そこは囚人たちに完全に占拠されていた。事態を理解した彼は、所持品をトイレに押し込み、囚人を装う。なんとか脱出したい彼は、暴動の首謀者マラマドレに取り入り、外部とコンタクトをとる機会をうかがう。外部では、SWATチームが突入のタイミングを見計らっている。さらに、フアンの身重の妻がニュースで暴動を知り、刑務所に向かうが――。

 スペインのアカデミー賞といわれるゴヤ賞で15部門にノミネートされ、作品、監督、主演男優、助演女優など8部門で受賞したダニエル・モンソン監督の長編第4作です。単なる監獄もののサスペンス・アクションではなく、緻密に組み立てられた人間ドラマになっています。

 SWATチームがすぐに突入しないのにはわけがあります。その刑務所のなかに、バスク地方の分離独立を求める組織ETA(バスク祖国と自由)の政治犯たちがいて、マラマドレたちは彼らを人質にとり、所内の環境改善を要求するからです。政治犯に危害が加えられることは、バスク州政府との対立の火種になりかねません。暴動の首謀者がなぜ政治犯の存在を知り、そのタイミングで暴動を起こしたのかも、ひとつのポイントになります。

 緻密な構成は、脚本の力だけではなく、フランシスコ・ペレス・ガンドゥルの原作が土台になっているからでしょう。

 ただし、それだけではこのような強烈なダイナミズムやインパクトが生まれることはなかったはずです。そこで、どうしても見逃すわけにはいかないのが、モンソン監督のこだわりです。彼は、異なるふたつの世界の境界に強い関心を持ち、そこから独自の世界を切り拓いていきます。

 たとえば、前作『イレイザー/The Kovak Box』では、虚構と現実の境界がポイントになります。主人公のSF作家デヴィッドは、トラブルに巻き込まれていくなかで、かつて自分が書いた小説、その虚構の世界が、現実のものになっていることに気づきます。彼は、ある科学者が仕掛けた罠に落ちていきます。その恐ろしい現実に対処するために、彼は銃をとらざるをえなくなります。そこでは境界の崩壊が起こり、おそらく彼は作家としてこれまでのように虚構を扱うことはできなくなるでしょう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ダニエル・モンソン
Daniel Monzon
脚本 ホルヘ・ゲリカエチェバァリア
Jorge Guerricaechevarria
原作 フランシスコ・ペレス・ガンドゥル
Francisco Perez Gandul
撮影 カルレス・グシ
Carles Gusi
編集 クリスティナ・パストール
Cristina Pastor
音楽 ロケ・バニョス
Roque Banos
 
◆キャスト◆
 
マラマドレ   ルイス・トサル
Luis Tosar
フアン アルベルト・アンマン
Alberto Ammann
エレーナ マルタ・エトゥラ
Marta Etura
ホセ・ウトゥリージャ アントニオ・レシネス
Antonio Resines
エルネスト マヌエル・モロン
Manuel Moron
アパッチ カルロス・バルデム
Carlos Bardem
レリゲス ルイス・サエラ
Luis Zahera
タチュエラ ビセンテ・ロメロ
Vicente Romero
アルマンド・ニエト フェルナンド・ソト
Fernando Soto
-
(配給:)
 

 『プリズン211』では、そんなモンソンの視点がさらに突き詰められています。ここで最初に浮かび上がるのは、刑務所の職員と囚人の間にある境界であり、トラブルに巻き込まれたフアンは、その境界を越え、囚人を装い、囚人の世界に溶け込んでいきます。新任の彼には想像するしかなかった世界が、突然、恐ろしい現実になるといっていいかもしれません。

 そこで、一般的な映画であれば、境界そのものが崩れることはなく、フアンが無事に脱出できるのか、それとも秘密が露見してしまうのかといったことが見所になるかと思います。しかし、モンソンはその先に突き進みます。バスク人の政治犯や暴動を起こした囚人、刑務所の職員などは、境界によって立場が決められ、交渉が行なわれるわけですが、モンソンはその境界を大胆に突き崩していきます。その結果として、個人のより深い感情、組織や政治のより醜い部分など、隠れたものが抉り出されることになります。

 この境界の崩壊から見えてくるものは、刑務所や暴動という特殊な状況だけではなく、一般の社会にも当てはめることができるでしょう。モンソン監督は、人間のアイデンティティを独自の視点で掘り下げているともいえます。


(upload:2015/06/25)
 
 
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