[ストーリー] 「犬になりたい。」進路調査書にそう書いた16歳の知世子は案の定呼び出しをくらった。大人になるって何かを諦めること――? 映画好きで変わり者の先輩・正宗は、そんな知世子を主人公にして映画を撮ることに。不機嫌な知世子にカメラを向ける正宗もまた知世子と同じ思いを抱えていた。ふたりはカメラを片手に“ここじゃないどこか”を目指して旅に出ることを思いつく。[プレスより]
風間志織監督にとって『せかいのおわり』(04)以来、10年ぶりの新作になる『チョコリエッタ』では、ベン・ザイトリンの秀作『ハッシュパピー バスタブ島の少女』と同じように、現実とファンタジー、生と死の狭間に独自の空間が切り拓かれ、少女のイニシエーション(通過儀礼)が描き出される。『ハッシュパピー〜』のヒロインは、終末的な世界のなかで、不在の母親がいると信じる場所に向かい、海の彼方の他界における象徴的な死者との交感を通して強靭な生命力を獲得する。
『チョコリエッタ』で他界への入口になるのは、フェデリコ・フェリーニの『道』だ。この映画が好きだった母親は、主演女優ジュリエッタ・マシーナにちなんで、愛犬をジュリエッタと名づけ、愛娘の知世子をチョコリエッタと呼んでいた。その母親は知世子が5歳のときに交通事故で他界し、以来ジュリエッタだけが彼女の心の支えになってきた。だが、その愛犬の寿命が尽きたとき、世界は退屈でくだらないものになり、16歳の少女は、知世子という人間をやめ、チョコリエッタという犬になろうとする。そんなヒロインは、高校の映研の先輩で“永久浪人”を目指す正宗と再会し、バイクでここではないどこかへ向かう。
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