魚住直子の同名小説を風間志織脚本、冨樫森監督で映画化した『非・バランス』のヒロインは、とある地方都市に暮らす中学二年のチアキだ。彼女は小学生のときに、親友だと思っていたユカリからイジメを受けたことが心の傷となり、いまは"友達を作らない"、"クールに生きていく"というルールを守り、孤独な毎日を送っている。
しかし、学校ではクールに徹しているものの、蔭ではユカリに無言電話を繰り返している。そんな彼女は、夏休みを前にして、ひょんなことからオカマの菊ちゃんと出会い、生き方が少しずつ変化し、成長を遂げていく。
バディ・フィルムとしても青春映画としても、実によくできた作品だ。菊ちゃん役の小日向文世の個性と存在感は忘れがたい印象を残すし、チアキ役の派谷恵美もがんばっている。しかし筆者がいちばん素晴らしいと思うのは、"緑のオバサン"のエピソードを通して浮かび上がる物語の重みだ。
チアキと菊ちゃんが出会うきっかけとなるのが、"緑のオバサン"のエピソードである。これはもともとは、同級生たちが暇つぶしに、おもしろおかしく話している噂話に過ぎない。しかしチアキは、いつものようにホラー・ビデオを借りた後、雨のなかで前から歩いてくるのがその緑のオバサンだと思い、救いを求めようとする。ところがよくよく見れば、緑のオバサンではなく、オカマなのだ。
こうしてふたりは出会い、絆を育んでいくが、このエピソードは、出会いのきっかけとなるだけではなく、映画の最後まで生きている。チアキは、このたわいない噂話に菊ちゃんを引きずり込み、自分の揺るぎない物語を作り上げていく。あえて孤独を選ぶことで、傷つかないようにするチアキと、過去の幻影にすがりつくことで現実から目をそむけ、傷つかないようにしている菊ちゃんは、
それぞれに相手の立場を通して自分を見つめなおし、積極的に生き方を変えていこうとする。
その結果、菊ちゃんは、噂話ではなくチアキが求めていた緑のオバサンになると同時に、最終的にチアキがそれを継承する。そしてチアキは、真正面からユカリにぶつかっていく。緑のオバサンの衣装がいかに不恰好に見えようが、もう彼女には関係ない。彼女には自分だけの物語がついているからだ。 |