アイルランドの新鋭レニー・アブラハムソン監督。ダブリンに生きるジャンキーのコンビを描いた長編デビュー作『アダムとポール』(04)につづく長編第2作です。アイルランド・アカデミー賞で11部門にノミネートされ、作品賞、監督賞を含む4部門で受賞を果しています。
舞台はアイルランド中西部、豊かな自然に囲まれたスモールタウン。主人公は、ガソリンスタンドに住み込みで管理人を務めているジョジーです。彼は、最も身近な存在が近所に飼われている馬というような孤独に見える生活を送っていますが、本人は特に不満があるわけでもなく、それなりに満たされています。
ところが、ある夏に、無口な15歳の少年デヴィッドがガソリンスタンドでバイトすることになり、ジョジーの世界が変化していきます。ジョジーに好感を持つデヴィッドと過ごすうちに、ジョジーは他者との関係を意識するようになります。しかし、デヴィッドや食品店で働く女性カーメルなどを通して、コミュニティに溶け込もうとするうちに、認識のズレが積み重なっていき、ジョジーは追い詰められていきます。
ジョジーには、おそらく軽度の発達障害があり、人との距離がうまくとれなかったり、人の気持ちがわからなかったりします。彼はひとりで生きていても決して孤独ではありませんでした。他者を意識し、疎外されることによってはじめて孤独を知るともいえます。そうした主人公の心理や他者との関係の微妙な変化が、鋭い洞察と独特のユーモアで描き出されています。
音楽は、前作と同じくスティーヴン・レニックスが手がけています。ストリングス、ピアノ、エコーをきかせたアンビエントなテクスチャーを駆使して、自然と響き合い、主人公に寄り添うサウンドスケープを生み出しています。
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