FRANK ‐フランク‐
Frank


2014年/イギリス=アイルランド/カラー/95分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

天使は思わぬところから舞い降りる

 

[ストーリー] 巨大な張りぼてのマスクを被り、人前では絶対に素顔を見せない、正体不明のカリスマ・ミュージシャン、フランク。彼が率いるアヴァンギャルドでイカれたインディー・バンド「ソロンフォルプス」に加入した、ロックスターに憧れる田舎青年ジョンは、とんでもなくエキセントリックで、でも驚くほどクリエイティヴなフランクの才能に心酔していく。「あのマスクの中にはいったいどんな秘密が?」

 やがてインターネットにアップした動画がセンセーションを巻き起こし、アメリカで開催される音楽祭からオファーを受ける彼ら。だが、バンドを意のままに操り、みんなに認めさせたいジョンと、大勢の前で演奏することを拒むクララたちメンバーの亀裂は深まり、遂に情緒不安定になったフランクは暴走して――。[プレスより]

 バンドをめぐるドラマは、彼らが成功するにせよ挫折を味わうにせよ、たいたいパターンが決まっているものだが、レニー・アブラハムソン監督の『FRANK ‐フランク‐』はそれをいい意味で見事に裏切ってくれる。コメディ仕立てにはなっているが、笑えるだけではなく侮れない深みがある。

 この映画の冒頭、ジョンが「ソロンフォルプス」のメンバーに出会う前のささやかなエピソードは、ドラマのひとつのポイントになる。ミュージシャンに憧れ、自分なりに曲作りに励んでいるものの(その姿はかなり滑稽に見える)、きっかけがつかめず鬱屈した日々を送るジョン。そんな彼は自分が暮らす住宅地を“マッチ箱”と形容し、天使がそんなマッチ箱から自分を連れ出してくれることを夢見る<サバービア>という曲を作ろうとする。

 これはあまりにささやかなエピソードなので、その後の展開のなかで忘れ去られる可能性が高いが、“天使”はこの映画の隠れたキーイメージになっている。

 偶然に「ソロンフォルプス」のメンバーに出会い、その一員となったジョンは、マスクの男、フランクに魅了されていく。ジョンにとってフランクは、彼をマッチ箱から連れ出す天使となる。

 しかしそこでジョンは、ふたつの間違いを犯す。ひとつはもちろん、バンドの音楽をもっと世間に知らしめるという野心を抱くことだ。フランクのカリスマは、メンバーたちとの微妙なバランスの上に成り立っている。ジョンはそれを理解していない。

 もうひとつは、フランクの音楽的な才能に対する誤解だ。ジョンは、フランクがなにか特殊な体験をすることでマスクを被ることを余儀なくされると同時に、才能を開花させたのだと考える。だから、フランクの過去を探り、同じような体験をすれば自分も才能を開花させることができるのではないかと。


◆スタッフ◆
 
監督   レニー・アブラハムソン
Lenny Abrahamson
脚本 ジョン・ロンソンピーター・ストローハン
Jon Ronson, Peter Straughan
撮影 ジェイムズ・マザー
James Mather
編集 ネイサン・ヌージェント
Nathan Nugent
音楽 スティーヴン・レニックス
Stephen Rennicks
 
◆キャスト◆
 
フランク   マイケル・ファスベンダー
Michael Fasbender
ジョン ドーナル・グリーソン
Domhnall Gleeson
クララ マギー・ギレンホール
Maggie Gyllenhaal
ドン スクート・マクネイリー
Scoot McNairy
ナナ カーラ・アザール
Carla Azar
バラク フランソワ・シヴィル
Francois Civil
-
(配給:アース・スター エンターテイメント)
 

 この生い立ちと才能をめぐるエピソードは、“サバービア”とも絡んでくる。やがてフランクがカンザス州のサバービアで育ったことが明らかになるからだ。ジョンは自分が暮らすサバービアをマッチ箱としか見ていなかった。では、フランクはどうなのか。そこは想像に委ねられているが、なかなか興味深い。彼は小さいときからすでに音楽的な才能に恵まれていたのかもしれない。あるいは、サバービアのなかで、マスクを必要とするほど心を病むと同時に、独特の感性を培ったのかもしれない。いずれにしても、環境はジョンとそれほど変わらない。

 ジョンは、そんな誤りからバンドを崩壊の危機に追いやる。だが、人生にはそのような誤りが必要になることもある。そう思わせるところにこの映画の深みがある。

 ジョンと「ソロンフォルプス」が出会わなかったら、フランクとメンバーの関係はずっと変わらなかったはずだ。フランクはマスクを被ることで自分を解放するが、メンバーはそんな不安定なカリスマの保護者的な存在になっていたところがある。そのままの関係がつづけば、マスクこそがフランクになり、素顔は失われてしまっただろう。

 もちろん、予想外の展開のなかで、マスクが破損するなどということも起こらなかった。つまり、突き詰めればフランクも彼をマスクから引き出す天使を必要としていたわけで、ジョンが夢見たのとはまったく違うかたちで天使が舞い降りることになるのだ。


(upload:2014/10/02)
 
 
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