[ストーリー] 巨大な張りぼてのマスクを被り、人前では絶対に素顔を見せない、正体不明のカリスマ・ミュージシャン、フランク。彼が率いるアヴァンギャルドでイカれたインディー・バンド「ソロンフォルプス」に加入した、ロックスターに憧れる田舎青年ジョンは、とんでもなくエキセントリックで、でも驚くほどクリエイティヴなフランクの才能に心酔していく。「あのマスクの中にはいったいどんな秘密が?」
やがてインターネットにアップした動画がセンセーションを巻き起こし、アメリカで開催される音楽祭からオファーを受ける彼ら。だが、バンドを意のままに操り、みんなに認めさせたいジョンと、大勢の前で演奏することを拒むクララたちメンバーの亀裂は深まり、遂に情緒不安定になったフランクは暴走して――。[プレスより]
バンドをめぐるドラマは、彼らが成功するにせよ挫折を味わうにせよ、たいたいパターンが決まっているものだが、レニー・アブラハムソン監督の『FRANK ‐フランク‐』はそれをいい意味で見事に裏切ってくれる。コメディ仕立てにはなっているが、笑えるだけではなく侮れない深みがある。
この映画の冒頭、ジョンが「ソロンフォルプス」のメンバーに出会う前のささやかなエピソードは、ドラマのひとつのポイントになる。ミュージシャンに憧れ、自分なりに曲作りに励んでいるものの(その姿はかなり滑稽に見える)、きっかけがつかめず鬱屈した日々を送るジョン。そんな彼は自分が暮らす住宅地を“マッチ箱”と形容し、天使がそんなマッチ箱から自分を連れ出してくれることを夢見る<サバービア>という曲を作ろうとする。
これはあまりにささやかなエピソードなので、その後の展開のなかで忘れ去られる可能性が高いが、“天使”はこの映画の隠れたキーイメージになっている。
偶然に「ソロンフォルプス」のメンバーに出会い、その一員となったジョンは、マスクの男、フランクに魅了されていく。ジョンにとってフランクは、彼をマッチ箱から連れ出す天使となる。
しかしそこでジョンは、ふたつの間違いを犯す。ひとつはもちろん、バンドの音楽をもっと世間に知らしめるという野心を抱くことだ。フランクのカリスマは、メンバーたちとの微妙なバランスの上に成り立っている。ジョンはそれを理解していない。
もうひとつは、フランクの音楽的な才能に対する誤解だ。ジョンは、フランクがなにか特殊な体験をすることでマスクを被ることを余儀なくされると同時に、才能を開花させたのだと考える。だから、フランクの過去を探り、同じような体験をすれば自分も才能を開花させることができるのではないかと。 |