アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜
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(2013) on IMDb


2013年/イギリス/カラー/124分/スコープサイズ/ドルビーSRD
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(初出:

 

 

自分の過去に戻れたとしても
何でも思い通りになるわけではない

 

[ストーリー] イギリス南西部の美しい海辺の町コーンウォールに住む青年ティムは、両親と妹、そして伯父の5人家族。一家はどんな天気でもピクニックを楽しみ、週末は野外映画上映を満喫する、風変わりだけど仲良しな家族。しかしどこか自虐的で自分に自信のないティムは年ごろになっても彼女ができずにいた。そして迎えた21歳の誕生日、一家に生まれた男たちはタイムトラベル能力があることを父から知らされる。

 そんな能力に驚きつつも恋人ゲットのためにタイムトラベルを繰り返すようになるティム。弁護士を目指してロンドンへ移り住んでからは、チャーミングな女の子メアリーと出会い、恋に落ちる。ところが最高だと思っていたタイムトラベルが引き起こす不運によって、二人の出会いはなかったことに! なんとか彼女の愛を勝ち取り、その後もタイムトラベルを繰り返し人とは違う人生を送るティムだったが――。[プレスより]

 『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティス監督の新作『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』は、前半と後半でドラマのトーンが大きく変わる。前半はロマンティック・コメディとして展開していく。

 自分の過去に何度でも戻れるというのはかなりの特権だ。だが、その能力でなんでも思い通りになってしまえば物語の面白みは失われてしまうだろう。この映画はそんな課題を巧みにクリアしている。

 父親から自分の能力のことを教えられたティムは、夏休みに一家の家に滞在することになった美女シャーロットに恋をし、能力を使って彼女にアタックする。だが、彼女の言葉と胸の内が一致しているとは限らない。だから言葉を真に受けて、いくら“タイミング”だけを合わせることができても、彼女の心まで動かすことはできない。

 その後、ロンドンに出て、父親の友人で舞台作家のハリーの家に下宿することになったティムは、魅力的なのにどこか自分に自信のないメアリーに出会う。この出会いもなかなか演出が巧みだ。ティムは友人と二人で、暗闇のなかで飲み食いする変わった店に行き、そこで女子の二人組と知り合う。暗闇のおかげでティムとメアリーの会話は弾み、店の外に出たときにはすでにそれなりに打ち解けている。

 ところが、そんなティムが帰宅すると、ハリーの大切な舞台が散々な結果に終わったことがわかる。そこでティムは過去に戻って、舞台が失敗するのを食い止めようとする。だが、そのせいでメアリーとの出会いがなかったことになってしまう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   リチャード・カーティス
Richard Curtis
撮影 ジョン・ガレセリアン
John Guleserian
編集 マーク・デイ
Mark Day
音楽 ニック・レアード=クロウズ
Nick Laird-Clowes
 
◆キャスト◆
 
ティム   ドーナル・グリーソン
Domhnall Gleeson
メアリー レイチェル・マクアダムス
Rachel McAdams
ティムの父親 ビル・ナイ
Bill Nighy
ハリー トム・ホランダー
Tom Hollander
シャーロット マーゴット・ロビー
Margot Robbie
キットカット リディア・ウィルソン
Lydia Wilson
ティムの母親 リンゼイ・ダンカン
Lindsay Duncan
-
(配給:シンカ)
 

 つまり、このドラマの軸となる男女の関係の出発点は、タイムトラベルの産物ではない。むしろ、その重要な偶然の出会いを取り戻すために能力が使われることになる。ここらへんはひねりが効いていて、楽しめる。

 しかし、後半に入るとロマンティック・コメディの枠を超え、家族を襲う不幸な出来事や避けられない死、そして日々の営みといった現実に即したシリアスなテーマが掘り下げられるようになる。

 その結果、前半と後半では、映画の世界と観客の距離や関係が変化することになる。そもそも自分の過去に戻るようなタイムトラベルと映画における編集は非常に相性がいい。だから、ふたつの要素がしっかりと結びつき、スクリーンの向こうに私たちの世界とは一線を画す魅力的な虚構の世界が切り拓かれる。それだけに、普遍性や日常性を強調して、向こうとこちらの境界を曖昧にしていくような後半のドラマにはどうしても違和感を覚える。

 

(upload:2014/09/26)
 
 
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