[ストーリー] ある週末、30年目の結婚記念日を祝うためかつての新婚旅行先パリへとやって来た、イギリス人夫婦――心配性な夫ニックと、好奇心旺盛な妻メグ。思い出のホテルに到着した二人は、記憶との違いに唖然。メグの思いつきで、二人は高級ホテル プラザアテネに乗り込み、ブレア首相も滞在したという最高級スイートにチェックインする。凱旋門や美術館を巡り、フランス料理にワインと旅を満喫するメグだったが、ニックの「大学からクビを宣告された」という告白をきっかけに、夫婦は長年心に抱えてきた不満をぶつけはじめる。
そんな時、街で偶然ニックの大学時代の友人モーガンと出会う。人気作家として名誉と富を手にした彼の出版記念パーティに招待され、懐かしさと劣等感に引き裂かれるニック。出席者たちの前で、メグが明かした夫への“本当の想い”とは――。
夫のニックは大学で哲学を、妻のメグは中学校で生物を教えている。インテリのカップルといっていいだろう。ニックはサルトルやベケットを敬愛している。若い頃の彼らは、ゴダールの『はなればなれに』を真似てマディソン・ダンスを踊った。自分たちをサルトルとボーヴォワールに重ねてみるようなこともあったかもしれない。
しかしいまは、バーミンガムのサバービアに暮らす中流の老夫婦である。彼らの息子は家を出て、家庭を持っているが、ふたりの会話から察するに、精神的にも経済的にも独立しているとはいえない。そんな息子に救いの手を差しのべるかどうかでふたりの意見はわかれる。彼ら自身も経済的にさほど余裕があるわけではない。結婚記念日を祝う旅はもちろん大切だが、あまり浪費をすれば前々から計画していた家の修繕に響くことになる。ニックはそれを心配するが、メグは人生を楽しむことを優先する。
これは長年連れ添った夫婦であれば、誰にでも当てはまるような物語に見えるが、夫婦がニックの大学時代の友人モーガンに偶然出会うことで異なる側面が見えてくる。そこで注目したいのが、脚本を手掛けている作家/脚本家のハニフ・クレイシだ。彼は、かつてスティーヴン・フリアーズ監督と組んだ『マイ・ビューティフル・ランドレット』や『サミー&ロージィ』などで、サッチャリズムと人種、ジェンダーの複雑な関係を色濃く反映した脚本を手がけてきた。そうした政治的な視点は、社会を動かす力が政治から経済に移行したあとも失われたわけではない。 |