筆者は現代の南部の土地とクリエーターの結びつきに強い関心を持っている。たとえば、『ハッスル&フロウ』(05)や『ブラック・スネーク・モーン』(06)で知られるクレイグ・ブリュワー監督は、メンフィスに暮らし、メンフィスで映画を撮る自身の活動を、“リージョナル・フィルムメイキング”、地域に密着した映画作りと位置づけていた。
『フローズン・リバー』(08)で注目を集めたコートニー・ハント監督は、メンフィス出身で、現在は東部を拠点に活動しているが、その感性は生まれ育った土地と深く結びついている。彼女はこれまでの短編や長編をすべてニューヨーク州のアップステイトで撮影してきたが、それは風景がテネシーの故郷に非常によく似ているからだった(コートニー・ハント・インタビュー参照)。
だから筆者は、テイト・テイラーがこの新作でジェームズ・ブラウンという題材から、どのように南部と結びついた独自の視点を切り拓くのかに注目していた。実際、彼は映画のプレスでブラウンと南部の関係に言及している。
「『南部では彼はレジェンドであり、私たちの生活の一部だった』とテイラーは言う。『彼は危険でセクシーで、楽しい人だ。失敗もしたけど、失敗しない人間なんかいないでしょ? 彼は今も南部の文化に寄り添っているんだ』」
そしてテイラーがブラウンを演じる俳優に求めたもののひとつが、「南部の田舎にルーツ――1933年にサウス・キャロライナ州バーンウェルの貧しい家庭に生まれた人々に見られるようなルーツ――を持っていること」だったという。さらに、ブラウンを演じたチャドウィック・ボーズマンについて以下のように語っている。
「『チャドがやってくれたよ』とテイラーは賞賛する。『彼はジェームズ・ブラウンの生地のすぐそばの、赤土に覆われたサウス・キャロライナで生まれた。この作品のキャラクターがまさに必要としていた男さ。たまたまアフリカ系アメリカ人に生まれ落ちて演技の訓練を積んできたってだけの俳優に、あのリーゼントのカツラを被らせてもうまくはいかない』」
確かにテイラーはブラウンの物語に南部を反映しようと努めたのだろう。だが、『ヘルプ 〜』とこの新作では、映画の土台がまったく違っている。『ヘルプ 〜』はキャスリン・ストケットの同名小説の映画化だが、テイラーとストケットは幼稚園時代からの幼なじみで、若い頃にはニューヨークでアパートをシェアしていたこともある。また、テイラーの短編作品からタッグを組んでいるプロデューサーのブロンソン・グリーンもミシシッピ州の出身だ。そして、テイラー自身も監督だけではなく、脚本・製作総指揮を兼ねている。
これに対して新作は、テイラーが監督に起用される以前に企画が具体化されていた。脚本を手がけたのは、ロンドン生まれのジェズ・バターワースとジョン=ヘンリー・バターワースで、ミック・ジャガーがプロデューサー/音楽製作総指揮を務め、アメリカ=イギリス合作になっている。
監督に起用されたテイラーが、そんな土台の上に立って、南部と結びついた彼独自の視点、独自のナラティブを切り拓くのは非常に難しい。おそらくそこからは異なるブラウン像が浮かび上がってきたことだろう。 |