ボアズ・イェーキン監督の新作『SAFE/セイフ』の主人公は、元NY市警の特命刑事だったルーク・ライト。ある陰謀に巻き込まれて職を追われ、マイナーな総合格闘技のファイターにまで落ちぶれていた彼は、負ける約束の八百長試合で誤って相手をKOし、ロシアン・マフィアにすべてを奪われる。死に場所を求めていた彼は、そのマフィアの一団に追われるアジア人少女メイを救ったことから、ロシアン・マフィア、チャイニーズ・マフィア、悪徳警官グループ、そして市長までが絡む陰謀に巻き込まれていく。
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イェーキンの監督作は久しぶりだ。ブリタニー・マーフィとダコタ・ファニング共演の『アップタウン・ガールズ』(03)以来か(未公開作を含めるなら、その間にジャクリーン・ビセットが出ている『Death in Love』(08)という作品がある)。
この新作でまず注目されるのは主演のジェイソン・ステイサムで、その次が、ほとんどのタランティーノ作品を手がけているプロデューサーのローレンス・ベンダーだ。監督の名前で観る人はおそらく少数派だろう。
筆者は以前、イェーキンのことをかなりプッシュしていた。黒人社会を背景に12歳のドラッグ・ディーラーの少年を描いた『フレッシュ』 (94)やレニー・ゼルウィガー主演で、ユダヤ系社会における女性の自立を描いた『しあわせ色のルビー』 (98)の頃だ。
イェーキンは80年代末に、ドルフ・ラングレン主演の『パニッシャー』(89)やクリント・イーストウッドが監督・主演した『ルーキー』(90)の脚本家として活動をはじめた。しかし、仕事に満足できなかったためか、すぐにハリウッドと距離を置き、小説を執筆する準備にかかる。そんなイェーキンに声をかけたのがローレンス・ベンダーで、彼のプロデュースのもと、『フレッシュ』で監督デビューを果たすことになった。
イェーキンはアメリカにおけるマイノリティの立場に強い関心を持っているが、それは彼の生い立ちと無関係ではないだろう。『しあわせ色のルビー』レビューに書いたように、彼の両親はイスラエル生まれのユダヤ系で、息子が厳格なユダヤ教徒として成長することを望み、彼を正統派ユダヤ教の学校に入れた。しかし、ユダヤ教の教義よりも自分を信じる彼は、級友と激論をかわしたり、ラビに睨まれるなど、異端児ぶりを発揮したらしい。
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