SAFE/セイフ
SAFE


2012年/アメリカ/カラー/94分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(未発表)

マイノリティというテーマとアクションのブレンド

 ボアズ・イェーキン監督の新作『SAFE/セイフ』の主人公は、元NY市警の特命刑事だったルーク・ライト。ある陰謀に巻き込まれて職を追われ、マイナーな総合格闘技のファイターにまで落ちぶれていた彼は、負ける約束の八百長試合で誤って相手をKOし、ロシアン・マフィアにすべてを奪われる。死に場所を求めていた彼は、そのマフィアの一団に追われるアジア人少女メイを救ったことから、ロシアン・マフィア、チャイニーズ・マフィア、悪徳警官グループ、そして市長までが絡む陰謀に巻き込まれていく。

 イェーキンの監督作は久しぶりだ。ブリタニー・マーフィとダコタ・ファニング共演の『アップタウン・ガールズ』(03)以来か(未公開作を含めるなら、その間にジャクリーン・ビセットが出ている『Death in Love』(08)という作品がある)。

 この新作でまず注目されるのは主演のジェイソン・ステイサムで、その次が、ほとんどのタランティーノ作品を手がけているプロデューサーのローレンス・ベンダーだ。監督の名前で観る人はおそらく少数派だろう。

 筆者は以前、イェーキンのことをかなりプッシュしていた。黒人社会を背景に12歳のドラッグ・ディーラーの少年を描いた『フレッシュ』(94)やレニー・ゼルウィガー主演で、ユダヤ系社会における女性の自立を描いた『しあわせ色のルビー』(98)の頃だ。

 イェーキンは80年代末に、ドルフ・ラングレン主演の『パニッシャー』(89)やクリント・イーストウッドが監督・主演した『ルーキー』(90)の脚本家として活動をはじめた。しかし、仕事に満足できなかったためか、すぐにハリウッドと距離を置き、小説を執筆する準備にかかる。そんなイェーキンに声をかけたのがローレンス・ベンダーで、彼のプロデュースのもと、『フレッシュ』で監督デビューを果たすことになった。

 イェーキンはアメリカにおけるマイノリティの立場に強い関心を持っているが、それは彼の生い立ちと無関係ではないだろう。『しあわせ色のルビー』レビューに書いたように、彼の両親はイスラエル生まれのユダヤ系で、息子が厳格なユダヤ教徒として成長することを望み、彼を正統派ユダヤ教の学校に入れた。しかし、ユダヤ教の教義よりも自分を信じる彼は、級友と激論をかわしたり、ラビに睨まれるなど、異端児ぶりを発揮したらしい。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ボアズ・イェーキン
Boaz Yakin
製作 ローレンス・ベンダー、ダイナ・ブルネッティ
Lawrence Bender,Dana Brunetti
製作総指揮 ケヴィン・スペイシー
Kevin Spacey
撮影 ステファン・チャプスキー
Stefan Czapsky
編集 フレデリック・トラヴァル
Frederic Thoraval
音楽 マーク・マザースボウ
Mark Mothersbaugh
 
◆キャスト◆
 
ルーク・ライト   ジェイソン・ステイサム
Jason Statham
メイ キャサリン・チェン
Catherine Chan
ウルフ警部 ロバート・ジョン・バーク
Robert John Burke
チャン・クワン レジー・リー
Reggie Lee
アレックス・ローゼン アンソン・マウント
Anson Mount
ハン・ジャオ ジェームズ・ホン
James Hong
トラメロ市長 クリス・サランドン
Chris Sarandon
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(配給:ブロードメディア・スタジオ)
 

 『フレッシュ』や『しあわせ色のルビー』には、彼の独自の視点が出ていたが、そういう作品をコンスタントに作ることはやはり難しいようだ。ちなみに、先ほど少し触れた未公開の『Death in Love』(08)は、ニューヨークを舞台に、ホロコーストという思い過去を背負う母親と息子たちの関係を描く作品で、彼の関心が反映されているように思える。

 ではこの新作はどうか。エンターテインメント重視のアクションではあるが、ロシアン・マフィアやチャイニーズ・マフィアを引っ張り出してくるところがこの監督らしい。しかし、それ以上に印象に残るのが、中国の南京出身の少女メイの立場だろう。彼女は一度覚えた数字は決して忘れず、コンピュータにも負けない素早さで計算ができる数学の天才だ。チャイニーズ・マフィアのボスは、莫大な金や重要証拠を守るためにメイの才能を利用している。

 そんな機械として扱われる少女がうまく掘り下げられれば、アイデンティティというテーマに結びついていただろう。ある意味では、彼の出発点である『パニッシャー』や『ルーキー』の世界とマイノリティへの関心がブレンドされた作品ともいえそうだ。


(upload:2013/01/13)
 
《関連リンク》
『フレッシュ』 レビュー ■
『しあわせ色のルビー』 レビュー ■
『タイタンズを忘れない』 レビュー ■

 
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