[ストーリー] 80年代、イギリス南西部ウェールズの海辺の町スウォンジー。主人公のオリバーは、自分の殻に閉じこもり、妄想に耽りがちな15歳の少年。そんな彼が、ちょっと変わっていて、恋人と別れたばかりの同級生ジュルダナを意識するようになる。ひょんなことから彼女とキスする機会に恵まれたオリバーは、恋人ができたと思い込み、セックスに期待を膨らませる。だがそんなときに、母親ジルの昔の恋人だったグラハムが隣家に越してきて、母親が彼と外出するようになる。両親が離婚するのではないかという危機感を覚えた彼は、なんとかそれを食い止めようとするが――。
イギリス映画『サブマリン』は、ノルウェー人の母とナイジェリア人の父を持ち、コメディアンや俳優としても活動するリチャード・アイオアディの初監督作品だ。ストーリーは言葉にするとよくある青春映画のような印象を与えそうだが、ディテールにこだわり、いたるところでひねりを加え、独自の世界を作り上げている。
物語は主人公オリバーのこのようなモノローグから始まる。「大抵の人は自分を唯一無二の“個”と考える。そう思うことで起きて普通に生活できる」。ではオリバー自身はといえば、そんなことを考えている時点で、すでに普通に生活することが難しくなっているといえる。彼は、「人生を生き抜くために空想の世界の自分を思い描く」。つまり、現実と妄想を往復し、揺れている。
だが、個性を放っているのはオリバーだけではない。オリバーにいきなりキスを迫って写真に撮ったり、なぜか男子のすね毛を焼きたがるジョルダナも、いかがわしい自己啓発セミナーを開き、教祖のように振る舞うグラハムも、地元の大学で海洋生物学を教え、うつ病気味に見えるオリバーの父親ロイドも欲求不満を抱えた母親ジルも、みなどこか変わっている。そして、オリバーの妄想を加速させる。
早口でまくし立てるオリバーのモノローグ、ストップモーション、無表情を生かした感情表現、ホームムービー仕立ての妄想といった演出や作り込みは、どこかウェス・アンダーソンの世界に近い。さらに、自分が死んだときの周囲の反応を妄想したり、ジュルダナに近づくために彼女が行っているいじめに加わるといった、いささか不健康なユーモアは、トッド・ソロンズを思わせたりもする。 |